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『千年相姦』五章 最後のサフラン(4/11)

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見知らぬ森で落雷に巻き込まれ右足を骨折してしまったクルルーは、サフランの機転もあり二匹の雄たちによってサフランの家に担ぎ込まれます。しかし目の前では、雄二匹とサフランがまぐわうという常規を逸した光景が。
その魔手(?)はクルルーにも……?
クルルーはどうやら彼女の乳房に意識を奪われているようです。これは今後の大きな伏線になりますので、なんとなく頭の片隅に置いてもらえると嬉しいです。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)サフラン(?)


五章 最後のサフラン(4/11)


「ぁ……ん」
 僕は視線だけで、果てた姿のまま身じろぎもせず横たわる雌を見遣った。
 雄たちは交配後すぐに去っていった。
 残された雌の脚の間に、雄たちがたしかにここにいたという証が残っていた。
 ……無体な。
 僕は自分のことを棚に上げてその光景に眉を顰める。雌はなおも脚を開いたまま、上半身をひねったり、頭を緩慢な仕草で左右に振ったりしている。
 辛いのだろうか。
 何か声をかけてやりたいような気もするけれど、身体が重い。
「いや……ですわ、まだ、わたくし、足りないのに、お恵み、が……」
 その雌が僕を捕える気配があった。
 瞬時に戦慄が全身を貫いた。
「黒トラ、さん、貴方を、わたくしに、下さい、な……」
 見知らぬ雄たちの体液を滴らせながら、その雌が僕に跨がってくる。
 待てよ、ちょっと待て!
 雄たちの証なのかこの雌の標なのか定かではない体液が、僕の下腹部を濡らす感触があった。けれど情けないことに、僕の雄の身体はこんな状況にも拘らず、雌を貫くべくして待ち構えていたのである。
「ッ……!」
 貫くような快楽が下腹部から背中を突き抜けていった。
 味わったことのない感触に、身体が勝手に歓喜する。
 狭隘なのに、僕を包み込む柔らかさもある。僕を誘導するときはだらしなさすら感じさせるほど緩やかなのに、行き止まりに辿り着いた途端、僕を内部から締め上げる。
「……うっ、くっ、はっ、……っ」
 惨めなほど、それはすぐに訪れた。
 僕は瞬きする間もないほどあっという間に、雌の内部にすべてを搾取されていたのだった。
「ああ……、まだ、もっと」
 感じ入るように僕を一頻り味わった後、引き抜きざま、再び腰を落とす。
 その圧に僕の雄は再び昂る。
 いつしか〈千年森〉で見た光景を思い出した。
 蛇が大木を占拠するように巻き付いていたあの姿。みしみしと音を立てて、いつしかその大木は倒れてしまうのはないのだろうか。そんなことを思った。
 この、雌……。
 僕は薄目を開けて初対面のこの雌を見上げる。乳房が気侭に跳ねている。息づく頂きが、僕を翻弄するように上下に、左右に、軽やかに揺れている。
 腰を不規則にうごめかしながら、規則正しく上下に律動することも忘れない。
「ああっ、ああっ、よくってよ、よくってよっ、ああっ、ああっ……」
 恍惚。
 恍惚を、こんなに惜しみなく表現する雌を、僕は見たことがなかった。
 この雌は交配することに特化された身体に、精神まできっと侵されていったに違いない。
 この雌はそのすべてが雄にとって都合のいい存在としてそこに在った。
 そうしてどんな仕打ちを受けようとどんな交配を数多の雄と交わそうと、それらを引きずることは一切ない。
 ただ、目の前の快楽をそのときそのときで全力でむさぼる。
 時間の概念が欠落しているようでもあった。
 過去も未来ももち合わせていないこの雌は、今この瞬間だけがすべてで、そうして切り取った刹那を繋ぎ合わせながらここまでやってきたのだ。
 継ぎはぎだらけの快楽を繋ぎ合わせて。
 流されているようでありながら、主体的だった。
 だから彼女はここから一歩たりとも動くことなく、離れの森の中でひっそり、そして確実に、根を張ることを可能にしたのだ。
 勝手に招き寄せられてくる雄共を苗床にして。
 僕も、苗床だな……。
 ああ、だけど。
 これは、逆らえない、逆らいたくない。
 もっと、もっと、僕を、気持ち良く、してよ……。
 憔悴しきった身体に下腹部だけが機能していた。
 切り離された悦楽を僕もまた享受する。
 揺れる乳房を見つめながら……。
 その、青い血管がうっすら浮いた、桃色がかった乳白色の乳房を……。


次の更新は2/15(木)を予定しております。

2018-02-01 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 12 :
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オリジナル小説書きさんへバトン

「scribo ergo sum」の八少女 夕さんに小説家バトンもらってきました!(昨年)
せっかくご快諾いただいていたのに、バトンするする詐欺みたいにすっかり遅くなってしまいましてすみません、夕さん!
それでは、どうぞ!

オリジナル小説書きさんへバトン

Q1 小説を書き始めてどのくらいですか?
A1 散文を書き散らかしてたころも含めると六〜七年ですかね。
Q2 処女作はどんなお話でしたか?
A2 以前ブログで連載していた「孤児院日誌」、人間のぎりぎりの自立を問う話でした。(そんな話だったんか……)
Q3 どんなジャンルが書きやすいですか?
A3 ファンタジー。
Q4 小説を書く時に気をつけていることは?
A4 癖のないわかりやすい文章を書くこと。 今の「千年相姦」は、テコ入れする前の文なので癖がありますね。
Q5 更新のペースはどのくらいですか?
A5 今年に入って掌編発表も加わるようになったので月三ですね。
Q6 小説のアイデアはどんな時に浮かびますか?
A6 常に妄想フル回転です。
Q7 長編派ですか? 短編派ですか?
A7 長編。でもシリーズものは二度と書きたくないです@侵蝕恋愛
Q8 小説を書く時に使うものはなんですか?
A8 ポメラ。最近はノートパソコンもよく使いますね。
Q9 執筆中、音楽は聞きますか?
A9 聞きませんが、家が海の近くなので波の音がBGMです。
Q10 自分の書いた小説で気に入っているフレーズを教えてください。
A10 まだまだです。描写が弱いのでそこを克服したいですね。
Q11 スランプの時はどうしてますか?
A11 最近、掌編や短編を手掛けるのは頭の切り替えにとても有用であることに気付きました。
Q12 小説を書く時のこだわりはありますか?
A12 わたしの作品は描写ではなく筋で魅せるものだと思ってるので、あまり地の文の描写を凝らないことですかね。内容が頭に入ってこなくなるので。
Q13 好きな作家さん&影響を受けた作家さんはどなたですか?
A13 影響を受けたのは長野まゆみさん。好きな作家さんは桐野夏生さんとか東野圭吾さんみたいな硬質な文体の方ですね。
Q14 感想、誤字脱字報告、批評……もらえると嬉しい?
A14 誤字脱字報告助かります!
Q15 最後に。あなたにとって「書くこと」はなんですか?
A15 精神安定剤です。

このバトンに回答する / 回答した人を見る

2018-02-05 : ■ご挨拶/連絡事項/雑感 : コメント : 22 :
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『千年相姦』五章 最後のサフラン(5/11)

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謎の美女・サフランの元で骨折した右脚を療養しているクルルー。前回は「殿方、私の締め付けに耐えられなくってよ♥」なサフランのスネークバイス(たらこさん命名)の餌食になったりと散々なクルルーでしたが、なんだかんだ彼にとってこの療養生活は心地いいもののようです。
この療養生活の中で彼の意識はどんどん深層世界にもぐっていきます。
クルルーはなぜ「乳房」にこうも拘泥するのか。
それが本格的に開示されるのは次回からですが、彼のインナーワールドの開幕をお楽しみください。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)サフラン(?)


五章 最後のサフラン(5/11)


 乳房。
 乳房が目の前に垂れている。
「はい、口を開けてくださいな、クルルー」
「ちょっ……、上半身は動くんだから、自分で食べるよ」
「でも、……」
「サフラン、その匙を僕に渡して。僕、自分で食べるよ」
「……」
 いっていた通り、サフランは「軽い」朝食を作って僕の元にまで運んできてくれた。野菜屑すらほとんど入っていない、見た目にも水のような薄いスープだった。仮にも病に臥せっている僕を気遣った結果だったのか、元からの暮らしぶりがそうさせていたのか、判別はつかなかった。それは数日前に森の中でみたあの雄たちの「数」に比例すると、あまりに質素なもののように思われた。
 もしかすると食に興味が薄いのかもしれない。それなら僕も一緒だ。彼女にはこちらのほうがしっくりくる。
「サフラン?」
 珍しく考えあぐねるような様子のサフランに、二度問いかける。
「でも、わたくし、ママキトゥン気分を体験してみたいのです」
「え……」
 予想だにしない言葉だった。
「クルルー、貴方、わたくしの仔キトゥンっていっても通用しそうな若者ですもの。ですから、ママキトゥン気分を味わうなら、今しか機会がないように思えるの」
「はあ……」
 いや、それは完全にそっちの都合だろう、と思った。ママキトゥン気分も何も、僕は十七歳で……。
 内心でいいかけて、自嘲する。
 ──そんなこと、ないか。
 チコに「あんなこと」をお願いしていたこの身だ。こんなことをいえる筋合いはないだろう。
「じゃあ、はい、あーん」
 僕は観念して口を開いた。
「まあ!」
 サフランが目を輝かせる。その、琥珀色とも翠色ともいえない、揺らぎを併せもった美しい虹彩の色した瞳を。
「ママキトゥンになってもいいのかしら!」
「ママキトゥンっていうか、とりあえず、その、匙を、……」
 運んで……、と僕はいい澱む。
 僕は口を開けさせれたまま放置されていたのだった。
「まあ、それじゃ失礼してよ。はい、あーん」
「あーん」
 といって、いい年をした者同士でとっさに疑似親子を演じきる。
 参ったな。
 交配時以外に、こんなことをするときがくるなんて。つまり、意識が鮮明なときに。交配のときみたく、意識を強制的に混濁させた「隙」に乗じるのと違って。
「うふふ、クルルー。わたくし、初めてママキトゥンになれました」
「……そう」
 初めて、という言葉に胸が軋んだ。
『あらわたくし、仔キトゥンが産めない体質ですの』
 数日前のサフランの言葉がよみがえった。次いでコロンのママの姿が浮かび、次いでなぜか森色の襤褸が浮かんだ。
「はい、またあーんですよ、クルルー」
「はい、あーん」
 端から見たら気持ちの悪い光景だったに違いない。実際自分自身、萎えている自分がどこかにいたのだから。
 けれどサフランの真剣な喜びに満ちた眼差しの前では、どうしてもいえないのだった。こんな馬鹿なことは止めようなどといった通説的な言葉はとても。サフランにとっては馬鹿なことでも非常識なことでもはたまた倒錯趣味からやっていることでもないのだ。彼女は純粋に、ママキトゥン気分に浸りたくて、僕を相手にママ気分を味わっているだけなのだ。
 サフランが「あーん」と匙を僕の口元に運ぶたびに、サフランの豊かな乳房も見え隠れする。僕はそれとなく目を逸らすように努力しながらも、どうしても目前に迫る量感に無視することが叶わない。沸き上がる昂りを、食欲で代替させる。そもそも主導権を握っている雌たるサフランが発情していない。雄は雌が発情するまでは施しようがないのだ。まったく、不都合なものだと思う。こと交配に関して、キトゥンは完全に雌にその全権を譲渡せざるを得なくなる。
 サフランは、見慣れない型をした衣服をいつも身にまとっているようなキトゥンだった。一枚布でできた衣服を、腰元辺り無造作に留めている。そして金属製の髪飾りのようなものをいつも髪に挿している。「顧客」の一匹がいつしかサフランに、一式贈ったものなのだという。
 サフランは衣食住のすべてを雄たちに依存して生きていた。僕たち雄が交配の主導権を完全に雌に握られているのと、それはちょうど真逆の相を示していた。だからこそ彼女はうまくやれていたのかもしれない。それは互いの依存と依存の上に成り立っていた完全な均衡だったのだ。
 襟の開いた独特の衣服から覗くサフランの乳房は、閉じた百合を思わせた。多くの雌キトゥンたちが開くことで円みを主張する花弁の乳房なのだとしたら、彼女のそれは閉じて突き出すことで異彩を放つ蕾の乳房だった。
 それは、娘キトゥンたちでは決してもち得ない猥りがましさだった。娘キトゥンたちから感じる、からりとした魅惑をサフランのそれからはまったく感じなかった。サフランのそれは、水にたゆたうしっとりとした淫靡だった。そうしてサフランの乳房は水気を含んでいる分、流動性に富んでいた。そうしてそれは一度や二度の交配では全容をつかみきれるものでもなかった。
 そうやってその異彩に魅せられるように集まってきたのが、数日前に森で見たあの有象無象の雄共だったのだろう。僕も間接的にその一員に加わっているのだと思うと、少しだけ萎えた。サフランは僕が伏せっている真横で毎夜、「顧客」と交わっていたので、なんともいえず不快な気持ちがせり上がってきたのである。この雌の隘路を、僕も「共有」したのだ。
 けれど数多の数の雄たちも、今の僕が体験しているような「仔キトゥン」の代用にされたことはないだろう。サフランの顧客は比較的年を重ねた大人キトゥンが多かったから。僕のようなあからさまな若輩者はサフランにしてみれば斬新だったのかもしれない。それでここぞとばかりに、ママキトゥン気分を味わってみたいなどと思ってしまったのかもしれない。
 それに彼女は真実、それらを体験したことがないのだ。
 それなら僕は与えてやってもいいと思う。さまつなことだった。彼女の「もてざるモノ」に比べたら、それくらいのことは。
 それに僕だって……。
「うふふ、クルルー、おっぱいを吸いたいの?」
「えぇ!?」
 おっぱい、という語句もそうなら、その先に続けられたせりふも耳を疑うようなものだった。「だって、先ほどから物欲しそうな目をしていらっしゃる」
「……」
 嘘だろ、と思った。
 僕はそんな目をして、この雌の乳房を見上げていたのか。それほど凝視して? 気をつけているつもりではあったのに。
 けれど彼女はどこまでいっても独自の法則で生きているような雌だった。「だってそうでしょう。赤ちゃんキトゥンはおっぱいが栄養源なんですもの」「……」
 これも、彼女の「ママキトゥンごっこ」の一環なのだった。
 どうしよう。
 便乗、してみようかな。
 まさか、こんな形で。
 ……雌のほうから、いいだすときがくるなんて。
 それだったら……。
「サフランの好きにしてください」
「本当にいいのかしら?」
 こんなときだけ確認を取ってくる。それも含めて、僕は貴女に委ねたいのに。……矜持が許さない、だなんて、この雌にはきっと思い至りもしないのだろうな……。
 サフランが僕の唇に、待ち望んだ乳房を垂れ流してくる。
「はい、授乳の時間よ」
「はあ……」
 言葉とは裏腹に、僕の唇は期待に震えていた。僕はサフランの乳房に噛み付くように吸い付く。
 チコにずっと秘密裏に「お願い」していたこと。
 それも、……あの人の名を呼びながら。
 ぴちゃ、ぴちゃ、という、雨音にも似た音が部屋中に響き渡る。それともそれは、いまだ降りしきる雨の音だったのか。
 雨期は過ぎたはずなのに、外の雨は降り止む気配がない。
「わたくしの赤ちゃんキトゥン、お味はどう?」
「……まあ、それなりに……」
 曖昧な返事でごまかしながらも、その実甘美な痺れに酔い痴れていた。
 美味で堪らなかった。
 頭が芯からじんと痺れるような、うっとりとするような味がそこからはした。
 そこからは何もこぼれ出ていなかったにも拘らず。
 僕は心の中だけであの人の名を呼ぶ。
 レフィー……。
 いつか、あなたにも、こうやって……。
 意識が、剥離してくる。
 耳を塞ぎたくなるような湿った音が暗い部屋を浸す。森のすべてから遮断されたサフランの棲処で、僕は大義名分を手に入れたのだった。
 自らの矜持を挫くことなく僕の願いを叶えてくれる乳房を。


次の更新は3/1(木)を予定しております。
2018-02-15 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 18 :
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《給餌》

毎月発表すると標榜した掌編第二弾は、耽美系SFとでもいうべき謎の医療機関を舞台にしたお話です。
これは、わたしがぼんやり妄想していたものの一つで、いつか長編で書けたらなぁ、と思っているお話です。
注目していただきたいのは題名にもなっている《給餌》という単語です。
「《給餌》(かっこあり)」と「給餌(かっこなし)」と
書き分けされているところにご注目ください。《給餌》というのは、一体なんなのか。そこはかとなく淫靡な匂いを感じ取っていただけたら成功です。
語り手は新人研修生のかいという青年。(22〜3歳位を想定しています)
まだまだ妄想の域を出ないので、いろいろ詰めが甘いんですが、雰囲気だけでもお楽しみいただけると幸いです。
それでは、どうぞ。


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イラスト/櫂/デジタル
 
「検体F−52208102の《給餌》に入る。ああ、かい、君は検査に入ってくれたまえ。指示は妻……失礼、ヴァネッサに仰いで。私は作業に入る」
 白衣がひるがえり完璧な弧を描く。
 と思ったときには、扉は僕を拒絶するように遮断された後だった。
 上部に備え付けられたランプが緑から赤に点灯する。
 《給餌》に入ると、セラート医師は当分この部屋から出てこなくなる。これからヴァネッサ女史と二人きりになれるのだと思うと、頬が緩んだ。
 僕はしばし陶然となりながらその壁とほとんど一体化している扉の前で立ち尽くしていたが、両頬をぱしんと叩くと踵を返した。

※※※

 果たして持ち場に向かうと、僕のもう一人の「教育係」であるところのヴァネッサ女史が、皮肉な面持ちで待ち構えていた。太腿と解け合ったタイトスカートからは、すらりとした脚が伸びている。
「あの人、《給餌》に入ったんですって?」
 鼻腔を貫く強烈な香気に、身体がかっと熱くなる。ヴァネッサ女史のきれいに巻かれた髪が頬に触れる。「あなた、《給餌》見たことある?」
 ほとんど吐息のように、ヴァネッサ女史が給餌、と僕の耳に吹き掛ける。セラート医師と同じ独特の発音。肩に添えられた左手の薬指には金色の指輪。ヴァネッサ女史の薬指にはあって、セラート医師の薬指にはないもの。
「給餌っていい方はどうなんですか。そりゃ、検体に必要以上に入れ込むのはどうかと思うけど、そういうのは非人道的だと」
 彼女を前にすると僕は自分がことさら朴訥な口調になることに気付いていたけれど、僕はそれを改めるばかりか、悪のりするようにさらに彼女を上目遣いで見遣る。彼女が激昂するであろう、ある一言を効果的に演出するために。「F−52208102っていう呼称だってそうだ、彼女はとってもかわいらしい少女なのに」
「臓器培養体よ!」
 いいぞ。
 ぴしゃりと打ち付けるようにいい方に、皮膚がぞわぞわっ、とあわ立つのが分かった。
 僕は「だからそういういい方はどうかと」などとたしなめがら、彼女のその実下がり気味の口角などを観察している。だらしない唇とは裏腹に、嫉妬に燃え上がった横顔は鋭利なナイフのようだ。だが全体として、彼女の肉は重力に逆らい切れていないような印象を与える。
 セラート医師やF−52208102にはない腐敗臭が彼女からはする。
 セラート医師のことは尊敬しているが、僕は彼といると、時々自分が無菌室にいるような錯覚にとらわれることがある。
 指輪一つ取ってもアシンメトリーを描いている彼等夫婦は、精神のありようにおいても、無菌と腐敗という非相似性を描いているのだった。
「だけど、奇妙ですよね。給餌っていうからには栄養を与えるわけでしょう。けれどあの部屋には生命維持装置のチューブが備え付けられてあるだけで、F−52208102の鼻にも胃にもチューブが繋がれているような形跡はない。まさか口から摂取するわけでもなし、意識がないんだから。一体セラート先生はどんな方法でもって給餌なさっているんだろう」
「経口食よ」
「え?」
 投げやりな断定口調に思わず僕は疑問符を投げ掛けていた。「え」の形に開いた僕の口が閉じ切らぬうちに、彼女は素早くいい継ぐ。「F−52208102はお口でごくごく飲んでるの」
 見てきたようにいう。
 彼女にしては子ども染みたいい方で、露悪的な響きもある。
「……貴女はF−52208102の給餌に参加したことがあるんですか」
 多くの医療施設がそうであるようにこの医局ご多分に漏れず不透明で、給餌は担当医以外誰もその全容を知らない、という異様な現実がある。M−30014991には何某なにがしの医師が、F−72051681にはそれがしの医師が、というふうに、給餌の担当医はかたくななまでに固定されている。それに拍車をかけるように、給餌は必ず密室で執り行われる。
 畢竟ひっきょう、給餌は、担当医以外誰もその全容をうかがい知ることができない。
 彼女の発言は、その絶対のルールに「隙」があることを示すものだった。
 僕のそうした疑問が顔に表れ出ていたのだろう、ふいに彼女が肩の力を抜いて笑った。
「わたしが《給餌》できるわけないじゃない」
 どこか諦念すら感じさせる、萎んだ風船のような表情。
 だが次の瞬間には、彼女はいつもの調子を取り戻していた。
「ねぇ、人間の身体には幾つ穴があると思う」
 ヴァネッサ女史の両腕が僕の首に巻き付く。
 彼女一流の戯れだということは分かっていたが、彼女の豊満な乳房が僕の身体で潰れる感触は嫌いじゃなかったので、僕はいつも通り彼女の余興に付き合うことにした。
 これは不貞じゃない、不貞じゃないぞといい聞かせながら。
「そうですね、まず眼窩」
「それから?」
「耳」
 彼女がくすぐったそうに身をよじる。僕が彼女の耳朶に唇を寄せたからだ。
「鼻」
 彼女の小鼻は、脂ぎっていた。よく見ると黒ずんだ毛穴がぽつぽつと浮かび、化粧でもごまかしきれない加齢がそこかしこからにじみ出ている。
 いいぞ、いいぞ。
 何しろ僕はあの無菌男と毎日一緒にいるのだ。
 そうして顔に開いた最後の穴、すなわち唇に到達した僕たちは、当然のように唇を合わせた。
 小鳥のついばみのようなキス。
 不貞じゃない、不貞じゃない。
 しかし手のひらは汗でびっしょりだった。
 いつもならここでゲームは終了のはずなのだが、ふいに彼女が僕の内心を見透かすようにいった。
「今日は下の穴も試してみようよ」
 僕はさぞ間の抜けた顔を晒していたことだろう。
 僕は彼女の「下の穴」発言に、不覚にもつまずいてしまったのだった。
「えーと、首から下ってことですかね」
 僕はまたぞろ朴訥な青年に舞い戻る。
 そうすることで彼女の追随から逃れられるわけでもないのに。
 必死に考えを巡らせるのだが、頭に浮かぶのは打開策ではなく、見たこともないヴァネッサ女史のしなやかな身体。
 無菌男に刺されたらたまったものではないぞ。
 とそこまで考えて、あの潔癖な医師は、たとい妻が他の男と寝ても眉一つ動かさないのだろうと思った。
 そうすると狼狽するのも急にばかばかしく思えて、ゲームの続きに興じる気になった。
「ぱっと思い付く限りでは、へそですかね」
「生まれ立ての赤ちゃんと母体が繋がるところだわ」
 ヴァネッサ女史の爪が僕の白衣に食い込む。
 真紅に染められたきれいな爪。
 彼女はどうして爪を整えるのだろう。
 何のために?
 ……誰のために?
「赤ちゃん」という語句が、僕に絡み付くようだった。
 それこそへその緒のように。
「次の穴は……」
 突如ヴァネッサ女史が口ごもり、うつむいた。
 彼女と無菌男は性交渉がないのではないだろうか。
 水の波紋のように突如真実が広がる。
 眼下には彼女の意外にかわいらしいつむじ。
 このいとけないつむじを見ていると、僕は僕がこれまで目を逸らし続けてきた彼女の心にとっ捕まってしまうような気がする。
 寂しさをたたえた彼女の沼に取り込まれてしまうような気がする。
「……それが、《給餌》の正体」
「……何?」
 答える気など到底ないというように、彼女が疲れきった口調でぽつりといい捨てた。
「あんたには《口径》がある、あの人にもある、そういうことよ」
 てきぱきと、彼女が指示を口に出す。
 僕は呆然とした思いで、スイッチが切り替わったように機敏に動く彼女を、風景を見るように眺めていた。

※※※

 僕は頃合いを見計らうと、適当にいい繕って持ち場を後にした。ヴァネッサ女史は僕の目的を知ってか知らずか、中座する僕を引き止めるでなく案外あっさり解放してくれた。
「開けてっ、開けてくださいっ、セラート先生!!」
 開くはずはないと分かっていて僕は扉を殴打する。その背景にほとんど埋没している扉を。
 予想に反して扉はあっさり開いた。
 セラート医師がそこにたたずんでいた。
「ああ、君……」
 セラート医師がいつもの様子で僕の目をのぞき込む。
 セラート医師は僕の呼びかけに応じて扉を開いたわけではなく、《給餌》をちょうど終えたところのようだった。
 セラート医師の肩越し、検体F−52208102の仰臥するベッドが見える。薄く盛り上がった掛布が、彼女の線の細さを物語っていた。
 シーツはしわ一つなく整っている。
 《給餌》の名残を探している自分に気付いて嫌気が差す。
 そんなことあるわけないのに。
 僕はヴァネッサ女史の悋気の炎に当てられただけなのだ。
 きっとそうなのだ。
 セラート医師は別段中の様子を隠すふうでもなく、落ち着いた仕草でパネルのボタンを操作する。やがて扉は再び壁と一体化し、僕たち二人は廊下に閉め出された。
 僕は唇を舐め、意を決して口を開いた。
「……F−52208102の《給餌》はどうでしたか」
「お口でごくごく飲んでたよ」
 ぎょっとする僕をよそに、セラート医師が僕をちらと見た。
「……と妻ならいうだろうね」
 自分の妻が目の前の男と犯している放蕩ほうとうに気付いているのだろうか、僕はぞっとしない思いだった。セラート医師の笑みはほとんど腹立たしいといっていいほど完璧で、その唇は妻とは対照的に平行に引き結ばれている。
 この男の心は鉄壁の無菌である。
『次の穴は……』
 ヴァネッサ女史の声がよみがえる。
 僕は彼女の情念を振り払うように、医師の後ろに続いた。
(2018年1月 書き下ろし)
2018-02-25 : ■掌編/短編 : コメント : 16 :
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canaria

Author:canaria

オリジナルの世界観を絵や物語(小説)で表現しております。 千年相姦/ブログにて毎月1日と15日に連載中。 侵蝕恋愛/BOOTHにて随時刊行中。 空の終焉/未発表作品。

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この世に居場所のない二人は、互いに何を求め、何を互いに見出したのか。
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『侵蝕恋愛Ⅱ蜜月』
ケイは路地裏で出逢った両性具有の少女の「片割れの性」に溺れ込むーー。
『侵蝕恋愛Ⅲ孤児院日誌』
ファーンは明け方の海で亡き母に瓜二つの少女セイレンに出会うーー。
『侵蝕恋愛Ⅳ恋人たちの契約』
一冊の手記がケイを過去へとからめ取るーー。
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