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『双卵少女』2章(2)


久しぶりにノアがセイレンを『犬奴隷ごっこ』に誘ったようです。年を重ねるにつれて、二人きりで遊ぶ回数が減っていった模様。その背景には「相手の望むままに行動する」というセイレン特有の性質も絡んでいるようです。アルシュのほうの「意志」にセイレンはここ数年引っ張られていたんですね。
そんな現状を敢えて打ち破って、セイレンを連れ出したノアの意図は一体何だったのでしょうか。
『セイレンは街の男共とヤりまくってるかもしれない?』
それでは、どうぞ。


『双卵少女』2章(2)


「おせーぞセイレン。おい、てめーまさか今日料理当番じゃねーよな」
「うん、今日は違うよ。今日はアルシュたちの当番……」「よっし、チャンス。セイレン、来い」
 夕方の『太陽の家』は忙しない。一応当番制になっているとはいえ、夕飯の準備は基本、皆で進めていくのが暗黙のルールだ。だけどあたしは今日に限ってその暗黙の了解を破った。どうしても今すぐに確認したいことがあったからだ。
 セイレンを『秘密のお城』に伴っていく。
 ちなみにこの『お城』は五カ所目くらいのものだ。
 それはアルシュに、歴代の『秘密のお城』が暴かれた回数と一致する。

※※※

「そこに跪きなさい」
「わんっ!」
 セイレンは、女にしては長身だ。四つん這いになってももう誤摩化しようがない。それもこれも、やっぱりこいつが半分男だからなんだろうと思う。
 子どもの頃はあまり意識することはなかったけれど、歳を重ねていくにつれて、セイレンの特異さが際立つようになってきた。
 セイレンは舌を突き出し、はっはっはっ、とあたしの命令を待ち受けるように、犬を忠実に再現している。
 セイレンは、他の子たちがいうほど地味じゃないし、周りから埋没もしていない、と思う。それなのに、学校ではなぜかこいつの魅力は半減ところが限りなく無に等しくなってしまうのだ。
 だけどこうして二人きりで対峙していると、それが錯覚であることがよくわかる。
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 白い肌、濡れるような黒髪、手入れはまったくされていないのに、それが却って一種の野性味に繋がっている。
 細い鼻梁に、大きいんだけれど、少しつり上がり気味の切れ長の瞳。眼窩に収まる黒い瞳は、けれど光の加減で、紅く光ることをあたしは知っている。
 骨ばった身体だけど、アルシュみたいに如何にも硬そうというような質感じゃなくて、魚の骨みたいなしなやかさもある。
 小さな男の子がそのまま縦に成長したみたいな感じだ。脂肪の薄い身体、って感じ。
 羨ましい。
 あたしは、自分の柔らかな身体が余り好きじゃなかったから、セイレンの薄い身体が実は内心羨ましくもあった。
 あたしは一頻りセイレンを眺めた後、口を開いた。
「……こうしてあんたと向き合うのは随分久し振りね」
「わおおんっ」
「子どもの頃は、もっと頻繁にお城に二人で籠っていたのに……」
 原因はわかっている。アルシュが逐一、セイレンの傍で目を光らせているからだ。
 それに、セイレン自身があたしの誘いを「断る」場面が増えていったから。
 これも原因はわかっている。例によってアルシュがセイレンに余計なことを吹き込んでいるに違いなかったからだ。
 例えば、こんなふうに。
「あんた最近本っ当……、付き合い悪いわよね。それはどうして? 理由を簡潔に述べなさい?」
「わうわう……」
 ほらね。
 アルシュの名前を出すのを躊躇しているのだ。
「もう、犬語で誤摩化してもだめよ。こんなときは人間にならなきゃ。怒らないし、誰にもいわないから、あたしにだけ本当のことをいってみせなさい?」
「誰、にもいわない?」
 セイレンが首を傾(かし)げた。こうすると本当に犬めいて見える。飼い主のアルシュの顔でもちらついたのだろうか。
「女に二言はないわよ」
 あたしはいってから、ちょっとだけすかしすぎたかな、と内心で少しだけ気恥ずかしさを覚えた。
「……何となく、何となくなんだけどね、……身体が、動かない、……っていうか……」
 奥歯にものが挟まったようないいかただ。あたしははっきりいってやった。
「アルシュが命令してんでしょ。『ノアに呼ばれても絶対に行くな』って」
「わう……」
 犬がしょんぼりと頭を伏せた。こいつは噓をつくのも下手なら、思っていることもすぐ態度に出るから困ったものだ。
 あたしは溜息をついた。
「はぁーあ、やっぱりね……。アルシュのいいかたって高圧的だものね。意志の弱いあんたのことだもの、アルシュに毎日毎日、あんなに付き纏われている上に小言をいわれてりゃ、そりゃ、あたしのことなんて忘れてしまうわよねぇ……」
 いいながら、自分自身、セイレンを誘う機会がめっきり減っていったんだ、という事実に思い至った。
 そうだ、アルシュのせいもあるけれど、半分は自分にも原因があったのだ。ガキの頃はそれこそ毎日のようにこいつと『犬奴隷ごっこ』をしていたような気がするのに。
 本当は、セイレンのことを忘れていたのは、あたしのほうだったんじゃないだろうか。それに、今更こいつを呼び出したのも、リエルのヤるヤらない発言に触発されて、「あること」をどうしても確認してみたい衝動に駆られたからだった。
「……ねえセイレン」
 あたしは唇を舐めた。
 「……ねえ、……あんたってさ、……授業さぼって、どこ行ってんの……」

2016-03-05 : 小説・「双卵少女」(番外編) : コメント : 18 :
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蛇屋敷


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さて、「carat!」参加作品、管理人は「蛇屋敷」というこの短編での参戦です。
このお話は、2009年頃、漫画家を目指していた頃に投稿用に切っていたネームを小説に書き直したものです。これを「Gファンタジー」に送ろうとしていたのだからおそろしい。
オチねーよ! という感じのお話なんですが雰囲気だけでも楽しんで頂ければ幸いです。
お暇つぶしにどうぞ





【8月9日】
『蛇屋敷』。
 に棲む彼女に恋をした。
「これ……読んでください」
 蛇屋敷の柵越し、手紙を渡した。
 彼女は一瞬目を見開き、
「ありがとう」
といった。
 背中を向け、振り向きざま、
「またこの時間にお会いしましょう」
と微笑んだ。
「はいっ」
 勢いよく返事した僕の声は、蝉の鳴き声を掻き消してしまうほど素っ頓狂なものだった。
 彼女の黒髪が門扉の向こうに消えていった。


【8月10日】
「お手紙読ませていただきました」
 昨日と同じ時間、僕たちは再び蛇屋敷の柵越し、向かい合っていた。
「貴方のお気持ち、とっても嬉しかった……」
 漆黒の睫が頬に落ちる。「こんな私でも、想ってくださる方がいるなんて……」
「あのっ、貴女は充分魅力的ですっ!」
 伏せた瞼が寂しそうで、僕は思わず喚き立ててしまった。「あ……その……、見た目だけでなくて、立ち居振る舞いとか、雰囲気とか、仕草とか……」
 って、これも見た目か……。
 失言だったかと思い、いい淀んでしまう。なおももごもごと口ごもる僕に、彼女は、
「これから私たち、たくさんのこと知り合えたら素敵ね」
 と微笑んだ。
 そういう彼女の笑顔は、やはり少しだけ寂しげなものだった。


【8月11日】
「今日、少しどこか出かけませんか」
 出会ってから三日目。
 僕は勇気を振り絞って彼女を外出に誘ってみた。けれど彼女は、
「……ごめんなさい……」
と、明らかにいい澱んだ後、瞳を逸らしながら続けた。「家族の者が、皆留守で……、家から出られないの」
 なんだ、そんな理由か、と思った。それなら仕方ない。嫌われてるんでなければ、それでいい。僕は逆に安堵した。
「……僕は貴女とこうやっているだけで幸せですから」
 彼女の心境を窺うように、上目使いで見遣る。彼女の白皙(はくせき)に朱が差した。そうすると、意外なほどに親しみやすさを覚える。
 僕は彼女の頬を掌で包んだ。
「また明日……来ます」


【8月12日】
「そう……それで『蛇屋敷』って呼ばれてるんだ……」
「ええ……」
 手紙を渡してから四日目、同時刻。僕たちはやはり柵越し、言葉を交わしていた。
「あ、ごめん」
「まあ、何が?」
「いや、だって、『蛇屋敷』って、邑(むら)の人達から呼ばれてるなんて、不愉快だろう?」
 彼女は朗らかに微笑んでみせた。
「先祖代々、敷地内の井戸に棲む『白蛇様』を祀っているから『蛇屋敷』。わかりやすくていいわ」
 その表情は、不思議と普段感じる寂しさを感じさせないものだった。
「貴女はその蛇神様を見たことがあるの?」
 僕は若干の好奇心にかられて尋ねてみた。
「……一度だけ」
 一度だけ、と彼女がぽつりといった。
「白色の鱗がとっても美しい……、目にも眩い白蛇だったわ」
 柵を掴む手にぎゅっと力を込める。錆びた門扉に、彼女の指の細い関節が痛々しいほどだった。
 白蛇様じゃないけれど、彼女もとても白い……。
 僕は眩しさから目を逸らすように、それとなく顔を夏空に向けた。
「でも、どうして井戸を棲処にしてるのかなぁ。その蛇神様は……」
 お社の中とかのほうがそれっぽいのにね、と僕は軽口を叩いてみせた。
「閉じ込めて、出さないため」
「え」
 彼女にしては硬い感じの声が、異質だった。
「そうやって……つないでいく」
「……」
 それは、「命を繋いでいく」という意味なの、それとも「井戸に繋ぐ」という意味なの。
 僕は尋ねようとして、けれど彼女の揺れる黒髪がいつになく儚気そうに映って見えて、口を閉ざした。


【8月13日】
「はい」
「まあ、綺麗……」
「小ぶりだけど、鮮やかな橙色でしょう。貴女の気持ちが明るくなればいいなと思って」
 同時刻。
 僕は普段から山中で見かける名も知れぬ花を彼女に渡した。


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「僕」が渡したのは、この花

「昨日、何だか少し元気なさそうだったから……」
 彼女の頬に陽光が揺れる。僕は光の乱反射をかいくぐるように、彼女の黒髪に腕を伸ばした。
 花を挿す。
 黒髪に橙の対比が眩しかった。
 彼女の瞳が花を追って目尻に寄る。
 僕はその隙を縫って、彼女の顔を捉えた。
 僕が手紙を渡して五日目。
 僕たちは口づけを交わした。
 僕たちの足下で、蝉が腹を見せながらもがいてた。


【8月14日】
「貴方に昨日頂いた花、もう枯れてしまったの。花瓶に挿していたのに……、ごめんなさい」
 そういう彼女の顔はとても悲痛なものだった。申し訳なくて仕方ない、というふうに眉を寄せている。
「そんなの、貴女が謝ることじゃないよ」
 僕は柵の向かい側から彼女の手を取った。
「僕が適当に引っこ抜いてきたからいけなんだよ。そこでしか咲けない花ってあるらしいから……」
「そこでしか、咲けない花……」
 そういう彼女の声は、問いたげなものだった。
「うん、山野草(さんやそう)っていうのかな。その花、山の中でしか咲かないんだ」
「……」
 夏の生温い風が彼女の髪を攫っていく。
「あの花は……そこでしか咲き誇れないのね。その場所でしか、生きることができない……」
 黒髪に掻き消されて彼女の表情がよく見えない。
 夏の盛り。
 けれど、蝉の鳴き声は、もう、聴こえない。


【8月15日】
 僕たちが出会ってから七日目だった。
 それは突如訪れた。
「お入りになって」
 と、彼女が僕を門扉の内側に招き入れた。
 僕は恐る恐る、彼女と連れ立って屋敷の庭を練り歩いていった。
 これが蛇屋敷……。
 けれど邑(むら)の人々たちの噂話とは裏腹に、蛇屋敷の内側は、意外なほどに清々しいものだった。
「綺麗に手入れされているんだね」
 彼女とこうして並んで歩くのは初めてだったから、何をしていても楽しかった。彼女は特に言葉を発するでもなく、微笑みを称えながら僕の他愛ない話に耳を傾けてくれていた。
 庭の趣が変わってきていることに、だから僕はしばしの間気づかなかった。
「……」
 雑草一つなく整然と整えられていた表の庭園に反して、そこはあからさまに荒れ果てていた。冷え冷えとしているのは日当たりが悪いからだろう。おまけに日照不足に便乗するように湿気っていて、如何にも陰気臭い。
 異様な佇まいに思わず息を呑んでしまったのも束の間、彼女が僕をこんなところへ伴ってきた理由はすぐに判明した。
「井戸」
「え」
「……いつかお話した……井戸。蛇神様の……」
 彼女が指指した方向に目を見遣ると、確かに草に覆われ盛り上がった、井戸と思わしき形跡が認められた。
「ああ、これのことなんだ……」
 想像していたのと違う様子に少しだけ戸惑う。祀っている、という語感から、もっと仰々しく飾り立てられていると思ったのだ。それこそ注連縄なんかで囲ったりなんかして。
 けれど実際は、粗末ともいえぬほどにただ、そこに放置されているだけだった。
 冷気に浸された裏庭が、けれど次の瞬間、そこだけ夏が充ちたように熱を増す。
「え……な、にを……」
 彼女が……。
 彼女が、突如衣服を脱ぎ払ったからだった。
 夏になったのは、僕の血潮だった。
「私の身体には、『性』がありません……」
 俄には信じ難い告白に、けれど僕の身体は彼女の抜き身の姿に釘付けになる。
 まっすぐな胸に凹凸に乏しい身体の線。
 確かに女性とはいい難い。
 けれど白々と濡れた光を放って……。
 僕はふらふらと、吸い寄せられるように、彼女の裸身に近づいていく。
「それでも、それでも、私は貴方を愛しています」
 僕も愛しています、と応えたかったけれど、目の前の身体の磁力は僕から言葉を奪うものらしい。
 僕は夢中で彼女の身体を手繰っていった。
 そうして僕は、彼女の正体を悟った。
 彼女の身体には「性」がない代わりに、小さな貝殻みたいな鱗が下腹部にびっしり張り付いていたのだ。
「君が白蛇様だったんだね……」
 彼女の頬から涙が落ちる。
 いつしか僕の爪に、指に、腕に、肩に、首に、鱗が生えていって、彼女の命が僕に『繋がれて』いくのが、わかった。
 彼女に繋がれた僕の身体がこの上ない快楽に満たされていく。
 最期の瞬間に、彼女の瞳を捕えた。
 僕はその寂しそうな瞳を脳裏に刻みつけた。
 しゅる、と、僕たちの身体が井戸の底に吸い込まれていった。


【8月9日】
 蝉の鳴き声が聴こえる。
 喧噪が、井戸の底にまで響いてくる。
 聴覚とは別のところで、僕は外の気配を捉えていた。
 僕はもはや「僕」と呼ぶべき身体も意識も、『資格』も失っていた。
 代わりに新たな「私」を得た私は、歴代の「私」と愛を囁き合う。
「あの屋敷、蛇屋敷って呼ばれてるんだって」
「怖いよなっ」
 子供達の元気な声が聴こえる。
「……けど、あすこ、すっごい綺麗な人、いたよ……」
 騒いでいた子供達とは別に、おとなしそうな男児の声が脳裏に届く。
「私」は井戸の底で微笑む。
 次の「私」がここにやって来るのはいつのことだろうか。
 私は連綿と続く「私」と恋をする。


2016-03-09 : web季刊誌「carat!」 : コメント : 18 :
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『双卵少女』2章(3)



「……ねえ、……あんたってさ、……授業さぼって、どこ行ってんの……」
街で性的逸脱行為を繰り広げているかもしれないセイレンに対してとうとう切り出したノアですが、どうやら様子がピンクになっているようです。
これは一体どういうことなのでしょう。
セイレンはあくまで相手の望むままに脊髄反射的に行動するだけです。ちょっとだけ強引で、でも引く時は引くといった、典型的な「夢ある男の子像」をセイレンは体現してあげているようです。
ノアの質問も、何だかはぐらかされた感が。それも彼女の意思を反映した結果なのかもしれません。
ですが、ここは普通に百合展開を楽しんで頂ければと思います。それでは、どうぞ。

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『双卵少女』2章(3)


 あたしの声は自分でも思っていた以上に震えていた。
「ん? 街だよ」
「——」
 セイレンは意に反して、ずいぶんあっさりとした様子だった。
 予想外の反応に、あたしは戸惑う。
 却って話のつぎほを失ってしまったような気がして、あたしは臆してしまう。
「じゃ、じゃあ、訊く、けどさ、……街で、何してんの、……」
 買い物、とか?
 我ながら意気地がないなと思った。だけどどうしても単刀直入に尋ねるのは躊躇われた。あたしの推測にすぎなかったし、それに、その先に広がる男の影を直視するのが怖かったから。
「エッチする相手探してる」
「——」
 と。
 ちょっと待て。
 あたしのここ数日の煩悶が、何とも露骨なまでの「現実」に直結した瞬間だった。
 あたしは一度セイレンをうかがうように見上げた後、慎重に言葉を続けた。
「……そ、それってさ、……」
「うん?」
「お兄ちゃん先生が原因なんでしょ」
 セイレンは一瞬沈黙した。
 ように思った。
 けれどその直後、
「どうしてそう思うの?」
 微笑んだ。
 やはり予想とは違う軽やかさに、あたしはたじろぐ。
「……だ、だって、あんた、昔すごいお兄ちゃん先生に懐いてたじゃん。その後急に、よそよそしくなって、……その後からだよ、あんたが、授業さぼることが増えてったの……」
 そう、あたしたちの間には、一言では説明しづらい「過去」があるのだ。だけどそのことがあったからこそ、こいつとあたしの『犬奴隷ごっこ』は絆を増した感がある。
「ふふ、いつの話をしてるの」
 セイレンが眩しいものを見るように目を細めた。
「誤摩化さないで」
「誤摩化してなんかない。俺が学校抜けだしてる原因が『あのとき』のことだと思ってるんなら、それは、違うよ」
 セイレンはいつになく大人びた口調でいった。
 らしくないセイレンに、あたしはそんなはずはない、と目顔で問う。
 セイレンは共犯者みたいな眼差しを向けた後、ふいに口角を、にっ、と上げて悪戯っぽく笑った。
「気にしてるんならさ、俺とキスしてよ」
 間髪入れず口腔に舌を差し込まれる。
 ちょ、ちょっとちょっとちょっと、ちょっと待って!
 こんなキスは知らない。
 こんなのはあたしたちの間で交わされるキスじゃない……!
 いつの間にかセイレンがあたしの胸をまさぐっていた。
 首筋にセイレンの息がかかる。セイレンらしからぬ熱さだった。
「ノアっ……」
 掠れた声。
 完全に、男の声になっていた。
 こんなセイレンは見たことがない。
 聞いたことがない。
 なのに、嫌な感じがしないのはなぜなのだろう。
 だけど未知のものに対する恐怖心が、あたしの心を挫いてしまった。
「ううっ、やっ……だ」
「……ご、ごめんっ」
 セイレンが素早く身を離した。けれどセイレンの瞳は熱に浮かれていて、セイレンの中にある「何か」が未だ鎮火していないのは傍目にも明らかだった。
「……ヤ、ヤるって、こ、こんなことをいうの」
「……ん?」
 あたしは息を弾ませながら尋ねた。
「あんた、街の男たちと、毎日こんなことしてるの……」
「……男の人相手のときは、また違うんだよ」
 セイレンはやっぱり否定しなかった。積極的に詳らかにする気もなければ、隠し通すつもりも更々ないのだろう。
「どう違うの」
「……ノアが一番、知ってるくせに……」
「……っ」
 次に襲いくる「何か」の気配から逃れるように、あたしは両目をぎゅっと瞑った。
「これ以上はしない。ごめんね……」
 けれど「それ以上」はなかった。
 セイレンは自分の胸に押し付けるようにして、あたしを抱き竦めた。
「これ以上、って、何のことよっ……!」
 あたしはセイレンの胸を叩いた。
「煽らないでよ。俺だってすっごい、我慢してるんだよ……?」
 こいつの声が耳元で屈もる。
 ああ。
 まったくの、別人だ。
 お兄ちゃん先生やアルシュといるときとは、まったくの、別人。
 それはきっと、こっちがこいつの本当の姿だからなんだ。
「こっちが、あんたの、本当の姿なんだよね……、ね、……そうだよね?」
 セイレンは答えなかった。
 かわりに、あたしを掻き抱く腕に力を込めた。
 それだけで充分だった。
 こっちが、セイレンの本当の姿だ。
 セイレンは、あたしだけのもの、あたしだけのものなんだ……。
「二人とも、夕飯」
 だけど空気を切り裂くような異質な声が、この空間を一挙に打ち壊した。「料理が冷めるよ」
「……アル、シュ」
 夕陽の逆光に、こいつの佇む姿がやけに黒かった。
 アルシュは『秘密のお城』に、扉代わりに掛けてある布をさも汚いものでも見るように一瞥してから、いった。
「……セイレン。ノアには構うなって、僕が再三いっていただろう」
「……アルシュ」
 セイレンが「女」の顔になったのを、あたしは見過ごさなかった。
 アルシュがこいつにしては荒々しい所作でセイレンの腕を取る。
「おいで」
「アル、シュ、……」
 二人だけで向き合っているときはすごく男っぽく見えるのに、アルシュみたく心身共に「完全な」男の前に立つと、セイレンはどうあっても「女の子」だった。
 それは、あたしにしても。
「ノアぁっ……」
「……!」
 セイレンが突如助けを求めるようにあたしに腕を伸ばしてきた。あたしもセイレンの腕を取ろうと思わず身を起こしかけて、でも結局、やめた。
 セイレンが『秘密のお城』からずるずると連れ出される音だけが、空しく響く。
 あたしは力なく立ち上がり、重い足取りで夕餉の匂いのたちこめる『太陽の家』に戻っていった。


2016-03-12 : 小説・「双卵少女」(番外編) : コメント : 13 :
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『双卵少女』2章(4)


※明日20日は「carat!」発刊日です。すぐ新しい記事がお目見えしますので、この記事への閲覧やコメントはお気になさらないでくださいね。ご負担になってしまうかと思いますので。立て続けの更新になってしまいすみません。


ノアの心情を巡ってこれまでお送りさせて頂いた2章ですが、今回でラストです。
さて、夕方の騒動から一転、その日の夜の出来事です。
施設暮らしである彼等にプライベートが約束されているはずもなく、大部屋での就寝はいろいろと気を揉むようです。
ノアも、皆が寝静まった頃を見計らって何やら物思いに耽っているよう。
掛布の下の腕は、どこに伸ばされているのか……。
夕方のセイレンの様子が忘れられないようです。
性的なことに対して、興味はあるけれど生々しいことを考えるのは怖いといったような、彼女の心情を見守って頂けますと幸いでございます。それでは、どうぞ。

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『双卵少女』2章(4)


 ヤる。
 ヤる、って、どんな感覚なんだろう。
 手順くらいは、そりゃ、知っている。
 毎日毎日、あんな大きな声でリエルたちに喚き立てられていたら、どんなに鈍感な子でも手順くらい把握できると思う。
 キスをして、互いの身体を触り合って、互いの服を脱がし合って……。
 だけどあたしの想像は、どうしてもそこで止まってしまう。
 互いの衣服を脱がし合うまでは、わかる。キスも。
 だけど……。
 ヤる、って、結局は、互いの男と女の証、つまり、性器ってやつを、擦り合わせることなんでしょ?
「……き、気持ち悪い」
 深夜の寝室にあたしの呟きは思いのほか響いた。あたしたち孤児に個室なんてものはもちろんあるわけがなく、寝室は当然、共同部屋だった。無論、男女で分ける、くらいの配慮はさすがにしてもらっていたけれど。
 寝室といえば、そういえばあの男女(おとこおんな)は男子のほうの寝室に割り当てられているのだ。理由は、その昔、セイレンが女子の寝室を使うことに女の子たちが難色を示したからだ。その一員にあたしもいたのだから皮肉なものだ。セイレンはあたしだけが占有している犬奴隷だったけれど、公の場でセイレンとあたしの関係が詳らかになるのは避けたかった。だから皆と歩調を合わせて、セイレンを男子の寝室に追いやったのだ。
 確かあのときも、アルシュが一言二言小言を垂れていたのだ。アルシュはああしていて発言力があったから、アルシュの言葉に皆内心へこんでいたっけ。
『セイレンの性へ対する差別だ』
 あいつは中途入園してきた孤児なのに、入園当時からやたら存在感があって、あっという間に『太陽の家』のリーダー的存在になっていった。
 あんないいにくいことを、あんな毅然とした態度で堂々といってのける性根は、敵ながら大したもんだと思った。セイレンはそのときも、困ったような顔をしてアルシュと皆とを交互に見比べていたっけ。
 それからだ。
 アルシュのあいつへ対する干渉があからさまになっていったのは。
 リーダー的存在のアルシュが傍にいるだけで、「牽制」になる。自然、セイレンが心ない発言に晒される回数は減っていった。それもこれも、アルシュが「表でも裏でも」セイレンが立ち回りしやすいよう根回しをしていたからだ。
 はっきりって、その手腕はお兄ちゃん先生より鮮やかだったと思う。だからお兄ちゃん先生もアルシュをすごい頼りにしているところがあって。
 まったく、あの明るい髪のへらへらしたお兄さんは、プライドってものがないから困る。
 よくいえば人に対して分け隔てがないっていうか。
 だけど尊敬はできない。先生のことは、あたしは嫌いじゃないし寧ろ好きだけど、でもやっぱり尊敬はできない。
 威厳がないからだ。
 好きと尊敬しているということの間には大きな隔たりがあると思う。
「……」
 性器、ってこれのことだよね。
 あたしは排泄器官も兼ねたそこを指先でそっと触ってみた。
 確かに、気持ちがいいといえばいいかも。くすぐったさの中にも病み付きになるような掻痒感が残る。
 けれどそれを男の子に見せるとなればまた話は別だ。
 いや、相手が男の子だからとか女の子だからとかはこの際関係ない。
 他人に自分の恥部を見せること自体がとっても怖いことだ、と思う。
 リエル、あいつは、いくら恋人だからといって、よく平気で自分の秘部を他人に晒すことができるもんだ。ここは、排泄器官も兼ねてるっていうのに。
 やっぱり、よくわからなかった。
 ヤる、って感覚は。
 セイレンは、知っているのだ。
 この、ヤる、って感覚を。
 あいつの話を聞いている限りじゃ、あいつは「女」としてヤることのほうが多いような感じだったし。
 じゃあ、夕方の『秘密のお城』でのあいつは何だったんだろう。あんなとろん、とした瞳をして、あたしを熱っぽい眼差しで見つめて。
『我慢してるんだよ……?』
 犬奴隷の言葉が甦ってきたその瞬間、身体の中心がずん、と重くなった。
 その感触がとても異質で、あたしは横になりながら、その感覚をどこか他人事みたいに遠くから眺めていた。
 そうしてセイレンの言葉や表情や、抱き竦めれられたときの感覚を思いだすたびに、その箇所の重みは増していくのだということに気づいた。
 罪の味のする不思議な甘さにあたしは暫しうっとりし、いつしかそのまま眠りについてしまった。

2016-03-19 : 小説・「双卵少女」(番外編) : コメント : 14 :
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webアンソロジー季刊誌「carat!」Vol.1 創刊号


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表紙チャーム作成者様(とりあえず、書いてみたヲタブログ/あさぎさん)
ダイヤモンドのチャームは「carat!」のイメージで、ハートを運ぶ羽根のチャームは
創刊に関わる人達の心を運ぶ……
というコンセプトでそれぞれ作成してくださったそうです。
ビーズの彩りもとても綺麗ですね。あさぎさん、このたびは本当にありがとうございました
!


大変長らくお待たせ致しました。
ついに「carat!」創刊です。
ご参加下さった皆様、お声がけ下さった皆様、本当にありがとうございました。
以下、参加作品です。
敬称略、ご参加順に記載させて頂いております。

「GH1898年~黄昏の母の為のパヴァーヌ~」
(LandM創作所/LandM)

「ニートのニイナ」
(優しさ12mg/あけみ)

「一度宙を舞った薄力粉は、爆発もするんだぞ!」
「走れジ○リィ」
(すべりやすくなっておりますのでご注意ください/はづち)

「254」(前編)
「254」(後編)
(Debris circus/山西 左紀)

「春、いのち芽吹くとき」
(scribo ergo sum/八少女 夕)

「イルクート神話序章―黎明 」
(ASDポンチのアウトサイダー日記/ponch)

「春讃歌」
(椿は ぼとりと 地に墜ちた/フラメント)

「いずみざかの靴置き場」
(真空坂 流線型クラブ/泉坂)

小説『花心一会』 第十三会「その、花の香りに包まれて」
(Court Café BLOG/TOM-F)

「アクセサリー」
(ダメ子の鬱/ダメ子)

「蛇屋敷」
(Fleurage(窓口)/canaria)
さて、 以下は管理人の編集後記もどきです。

【編集後記】
改めまして、このたびは皆様お忙しいなか、拙ブログの企画にご参加下さり誠にありがとうございました。
当初は自分一人だけの参加も辞さない覚悟だったのですが、予想以上にたくさんの方々にお声がけいただき、管理人自身が一番驚かされております。

「carat!」は季刊誌です。
なぜ季刊誌なのかと申しますと、諸事情により気軽に年四回の「COMITIA」に参加できなくなってしまった管理人が、自分を振り返る「節目」が欲しかったからです。
それを広がりのあるものにしたくて立ち上げたのが「carat!」なのですが、皆様におかれましても「carat!」がご自分を振り返る「節目」になってもらえていたら嬉しいです。

「carat!」は参加型企画なので、皆様お一人お一人のご意見が「作品」です。
ご意見・ご要望等ございましたらご遠慮なくお声がけくださいね。
今回の表紙も、まさかの嬉しいサプライズによりあさぎさんのチャームがお目見えです。
ありがとうございました。

さて次回「carat!」vol.2 夏号6月22日(水)発刊予定です。
〆切は6月10日(金
また、末文になりますが、管理人の見込み不足により、若干の規約変更を迫られております(汗)すみません。そちらも追って詳細をお知らせさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます。

この度は皆様作品制作お疲れ様でした。
そして本当にありがとうございました。
canaria
2016-03-20 : web季刊誌「carat!」 : コメント : 21 :
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『双卵少女』3章(1)


新章突入です。突然の一触即発の危機。一体何が起こったのでしょうか。
今まで沈黙を守ってきたアルシュがとうとう行動に出たようです。
一番悪いのはセイレンなのですが、怒りの矛先はどうやらライバル同士である互いに向いているようです。
セイレンを巡る少女と少年の諍いの3章。
それでは、どうぞ。

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『双卵少女』3章(1)


 信じられないものを見た。
 信じられないものを見てしまったのだ。
 アルシュがセイレンに口づけていたのだ。

「てめーくそアルシュっ、何様のつもりだよっ」
 あたしはアルシュを壁際まで追いやった。
 だんっ!
 すかさず、通路を塞ぐように壁に脚を立て掛ける。
 こうでもしないと、精神的に優位に立つことができないのだ。ガキの頃は然程だったのに、今のこいつはやたら背だけは高くなって、とてもじゃないけどちびのあたしでは太刀打ちすることができなかったから。
「いっただろーがっ、セイレンはあたしたちのグループの一員なんだぞっ。何勝手に手ぇ出してんだよっ」
「相変わらずひどい言葉遣いだね。何をいっているのかさっぱり理解できない」
「あぁ? テメーのほーは空気読めない朴念仁だよなあ? なあ!?」
 再び、壁を足で強打した。足がじーんと痺れる。けれど知ったことじゃない。それよりも何よりも、今は早急に確認しなければならないことがあった。
「あたしさ、見たんだよ」
「何を」
「てめーがあの男女(おとこおんな)にキスしてるとこだよ」
「──、男女、っていいかたは聞くに耐えない」
「はっ、通じるんなら何でもいーんだよっ。それよりてめーなんでセイレンにキスした!? セイレン嫌がってたじゃねーかよっ」
「……セイレンは拒否しなかった」
「あ!? あんまりてめーが臭すぎて硬直してたんだよ」
 きゃははっ。
 哄笑し続けざまアルシュを見遣る。
 っと。
 ちょっと待て。
 意外と、効いている?
 アルシュにしては落ち着きなさげな様子だった。
 ガキの頃から一緒に暮らしているからなのか、学校の人間だったらまず見逃すであろう些細な変化もあたしは見逃さない。
 こいつ、ビビってんのかよ?
 まーじーうーけーる!
「わかったんなら二度とセイレンに手ぇ出……」「セイレンに交際を申し込んだ」
 は?
「セイレンは承諾してくれたよ」
 は?
 こいつ、薮から棒に何いってんの?
 アルシュが挙動不審になっていたのは、何もビビっていたからというわけではないようだった。
「ちょ、……ちょっと待てちょっと待て。あ? セイレンは半分男なんだぞ?」
 そんでもって、てめーが想像している以上に、男っぽい一面をもってるんだぞ?
 あたしが本当にいいたかったのはそんなことじゃなかったんだけれど、思いとは裏腹に的外れなことしかいえなかったのは、それはあたしの頭がそれだけ混乱していたからだ。
 俺だって我慢してるんだよ、といったときのあの熱っぽい表情。
 耐え難い、といったように、あたしの首筋に顔を埋めたときのあの熱。
 そんな光景が脳裏に浮かんでは消えていくようだった。
 そんなあたしの内心など露知らず、くそ真面目なこいつはあたしの問いかけにもくそ真面目にに応えるばかりだ。
「セイレンは女の子だよ。少なくとも、心は、ずっと……。ノアはセイレンのグループの『リーダー』なんでしょ、そんなこともわからないで、ずっとセイレンと友達をしていたの?」
「あ? てめえ、何くそ生意気なこといって……」
 売り言葉に買い言葉というように、もはや憎まれ口しか叩くことができない。
「セイレンはノアが思っているより、ずっと女の子なんだよ、ずっと……。僕はセイレンのことが好きだった。それはもう、昔から、……。だから告白した」
「……」
 何なんだこいつは。
 何を勝手に盛り上がってんだ。
「いやいやいや、そんなんマジな目でいわれても、引くって」
 精一杯虚勢を張って何とかいいくるめようにも、あたしの心はいまや崩落寸前だった。「ノアは論点を逸らそうとしている」
「……」
 図星だった。
「ノアの言葉で、推測が確信に変わったんだ」
「あたし、の言葉?」
 何のことだ?
 けれど次の瞬間、数日前の光景が脳裏に浮かんで、あたしの中で答えを切り結んだ。
「……セイレンが、いろんな奴とヤってるって、あたしがいった、あれかよ……」
 それは、他ならない、自分自身がアルシュにいい放った言葉だった。
 アルシュはしばしあたしの様子をうかがうようにじっと見上げた後、「……相変わらずヤるとかヤらないとか、聞くに耐えない、……だけどそうだよ。僕はその行動を止めたかった。……恋人になったら、堂々とセイレンの行動を制限することができると思ったから」
「……」
 なーにが、『恋人になったら、堂々とセイレンの行動を制限することができると思ったから』
 だよ。
 だけど確かにそうだった。確かに「彼氏」だったら、それこそセイレンが不特定多数の男と『交友』することを止める権利がある。
 っていうか、彼氏彼女って、そういうことだから。
 多分。
 多分、だけど。
 あたしが、セイレンを犬奴隷として酷使していたように、こいつは「彼氏」になることでセイレンを束縛しようとしているのだ。
 自分の都合のいいように。
 セイレンの性を、自分にとって都合のいい「女の子」へ傾けて。
「てめーは結局セイレンを女の子扱いしたいだけなんじゃねーかよっ。いつもセイレンの性がどーたらこーたら、ありのままがどーたらこーたら、大きな口叩いてたくせによっ」
「否定はしない」
 そのいいかたにカチンときた。
「否定どころか、要するにてめーはセイレンをやらしい目で見てたってことなんだろうがっ、自分の都合のいい女に」
「……僕のセイレンに対する想いはそんなんじゃない」
 あたしの惑い、揺れ動く心境と反比例するように、こいつの態度はあくまで淡々としたものだった。その揺るぎのない反応が増々あたしの焦燥感を募らせていくのだということも知らずに。
「だーっ、そーいう重いこといってんじぇねーって、てめー気持ちわりーんだよ、何っでもかんっでもくそ真面目に捉えてさあっ……、てめーがセイレンに、おっもーい、すうこーな気持ちを抱いてたってのはわかるよっ、あんっ……だけ献身的に尽くしている姿を毎日毎日まいっにち見せつけられていたらさあっ、……」
 だから、だから、だめなのだった。
 だから、あたしは、必死になってアルシュを牽制しようともがいていたのだった。
 って、もがくったって、こいつらはもう、つきあってるのに。
 もう、つきあってるのに。
 その呪いの言葉を頭の中で反芻した途端、あたしの中の何かがぶち切れた。
 先につきあっていたのは。
 先につきあっていたのは。
 あたしたちのほうだったのにっ!
「……てめーはセイレンが何でヤりまくってんのか、その本当の原因をわかってんのかよ」
 自分でも驚くほど、それは地の底から沸き上がるような低い声だった。
「……、聞きたくない」
 アルシュが臆したように目を背けた。
「あたしの口からはっきりいってやろうか」
 少なからずこのいけすかない男を追いやっているという手応えは、あたしの心に仄暗い嗜虐心を灯した。「お兄ちゃん先生に対するあてつけだ」

2016-03-26 : 小説・「双卵少女」(番外編) : コメント : 16 :
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