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coral talk

毎月発表すると標榜した掌編第一弾は、とある海の生物視点のお話です。
coral、つまり珊瑚のお話です。
珊瑚には「単体サンゴ」と「群体サンゴ」とがあるらしいのですが、このお話のサンゴは後者の「群体サンゴ」にあたります。サンゴはポリプと呼ばれる構造をもつのですが、このポリプが分裂出芽を繰り返して生じたクローンが、分離することなく集まって生活するものを「群体サンゴ」と呼びます。(Wikipediaより)
幾つもの「私」が集まってできた自我とはいかなものなのか。
ちょっと耽美で不思議で不気味なお話(を目指した)を、お楽しみください。
それでは、どうぞ。


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イラスト/coral/水彩(スパッタリング・吹き流し・コラージュ)
 
 ひらひらと目の前を、色鮮やかな着物まとった魚が横切ります。魚の袖が頬をくすぐる感触に、私は身震いします。
 私は幾重にも分かたれた私の硬質な身体を伸ばし、海水が身体を撫でる感触に身を委ねます。
 え、私というのはどの私のことなのかって?
 そんなのどうだっていいことじゃないですか、あなたがたは本当に個というものにとらわれておいでなのですね。
 まるで人間のよう。
 彼らは私たちにとって最も理解しがたいものの一つです。
 今私は私のことを「私たち」といいましたね。
 私は私という個であると同時に個を包括した全体でもあるのです。
 難しいですって?
 ですからそんなことはどうでもいいのですよ。
 そんなさまつなことは。
 ところであなたどなた?
 それすらもどうでもいいことですわね。
 ほほほ。
 人間といえば、あなた知っていて。
 人魚姫!
 ついこの間──といってもそれは「ある私」にとってははるか昔のことでもあるのだけれど──とうとう禁を破って人間の男に会いに行ったのですって。
 あの美しい声と尾鰭を代償に。
 私は何度もやめなさいっていったのよ、あんな危ない魔女の作った薬に手を出すのなんて。でもあの娘ったら、頑として聞かなくって。まったく、かわいい顔して頑固なんだから。
 おかげで彼女ったらヤク中になっちゃって、最後は訳分かんなくなっちゃって、海の藻屑となって消えちゃった。
 文字通り、海のエキスとなって溶けちゃった。
 どろっどろ。
 あの娘も私たちの仲間になりたかったのかしらねぇ。
 ねえあなた。
 おほほ。
 え、ヤク中っていい方はないんじゃないかって?
 じゃあジャンキー?
 もっとひどいって?
 分からないわね、だって恋っておおむねそんなものじゃない。
 人魚姫もイルカの群れも川と海を行き来する鮭の大群も砂をまき散らしながら突進するウミヘビたちも命をつなぐため毎度毎度へこへこへこへこ、必死こいてがん首そろえてる姿をジャンキーといわずしてなんというのよ。
 私たちのように優雅に振る舞えないのかしら。
 え、私は優雅という言葉から一番遠いですって?
 ジャンキーなんて言葉を平然といい放てる生き物が優雅なはずないって?
 まぁっ、失礼しちゃう!
 怒りのあまり薄紅色の可憐な身体がゆでだこになってしまうわ。
 あ、蛸はいらっしゃらない?
 あの方、自分が人間に捕まってゆだってしまうのがなによりの恐怖なのよ。
 私がこんなこといってるってばれたら、墨でお顔が真っ黒になっちゃう。
 そうよ、人間に目をつけられたら、蛸も私も終わりなんだから、あなた、言葉には気を付けてちょうだいな。
 お願いよ。
 ひっそりと息を潜めて生きてる意味がなくなっちゃう。
 私がどれほどの時を生きてきたのか──。
 もう定かではない。
 何しろこっちの私は数千年前に生まれたと主張するし、あっちの私は昨日誕生したなんてまことしやかにささやくのよ。そんな私にとって時間なんてものはてんで当てにならなくて、つまり、うろんなもの。
 個もそうだと思うのよ、うろんであいまいで中心は空洞なのに、みんなさもそこに何か大事なものがあるとでもいわんばかりに、意味を付与したがるのね。人魚姫は、空っぽの宝箱を無理やりこじ開けた先にあるのは希望じゃなくて絶望なんだってことに気付いてしまって、ビョーキをこじらせてしまったのよ。
 え、じゃあなんていえばいいのよ。
 ジャンキーていうよりはよほどいいじゃない。おまけに詩的ですらある。
 ああ、私、生まれ変わったら詩人になろうかしら。
 なんて冗談。
 生まれ変わるのなんてまっぴらよ。
 私は私が私であるために必要な、このいくつもの私で構成された身体を捨てたくない──。
 いつまでもこの桃色の牙城を海の底に張っていたい──。
 人魚姫もバカ王子も、バカ王子を助けたのは自分だと騙ったあばずれも──だからごめんなさいってば、人間たちの野卑な言葉が船底を伝って聞こえてくるのよ──、個なんてものにすがりつかず三人でくっついちゃえばよかったのに。そうしたら王子はどっちの女も手に入れられるわけだし、人魚姫は愛を成就できるわけだし、あばずれは目障りだけれど──そこはほら、個というものに目をつぶって三人で『お愉しみ』すればいいわけだから──誰もかれもが幸せになれると思うんだけれど、私、間違っているかしら。
 え、もうこれ以上私と話していたくないですって?
 気分が悪い?
 ちょっとお待ちなさいな、あなたはしばらくぶりのお客様なのに。
 ……。
 ええ、そう、そうね。
 私たちでお話しすればいいいわね。
 私としたことがつい、振り乱しちゃって。
 みっともないわ。
 久しぶりにあっちの私とお話ししてみようかしら。
 それとも生まれたばかりの私と?
 楽しいわね。
 これ以上ないくらい充足してるわね。
 けれど、どうしてかしら。
 私、今、立ち去ったばかりのあの方のことを、猛烈に「自分以外のもの」と意識している。
 それってつまり──。
 ああ、やめ、やめ。
 こんなことを考えるのは「私」らしくないわ。
 こんな「私」はさっさと破棄、破棄。
 ポキッ!
 さあ、新しい私、こんにちは!
 ところで、視界の先にぷかぷか浮かぶ桃色の枝、あれはいったい『どなた』かしら。
 ねぇ、『あなた』?
 おほほほほ!
(2018年1月 書き下ろし)
2018-01-25 : ■掌編/短編 : コメント : 20 :
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