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前年度の反省と来期の目標とかお知らせとか

今日は春分の日。
調べによると昼と夜の長さがほぼ同じになる日だそうですが昼のほうが14分ほど長いそうです。でもまあこんな風にして春めいてくるんですね。二十四節気偉大。

前年度はブログスタイル変更に伴い皆様には多大なご迷惑とご心配をおかけしてしまいましたが、おかげさまでというかなんというか個人的には非常に快適に過ごさせていただいております。
余裕が出てくるとコメント欄の完全解放を……と思わないでもないのですが、わたしの場合ここで欲を出すと後で絶対またしっぺ返しがくるので、当分はこのスタイルを維持していこうと思います。自分にはこのくらいのほうがいいようです。皆様におかれましては読み逃げ状態が続いておりますが本当に申し訳なく……またわたしにとって交流を控え目にすることは「禁欲」の意味合いもあるのでご了承いただけますと幸いでございます。

ただいま「侵蝕恋愛Ⅳ」絶賛執筆中です、あともう一息というところまできています。世界にどっぷりつかっている最中で気が抜けないので、主人公ケイの心情を忠実になぞるためにも今しばらく「禁欲」させていただきます。ごめんなさい。
ほら、テスト期間中にウェーイするのって気が引けるじゃないですか、それと一緒……

ついでといってはなんですが、そんなこんなもあって新年に目標を掲げることができなかったので、この期に前年度の反省及び来期の目標設定です。

◆前年度の活動及び反省

【ブログ関係】
●「双子少女」連載(完結)
●「千年相姦」連載開始(連載中)

【創作】
●「侵蝕恋愛Ⅱ」執筆/pixivBOOTHにて無料ダウンロード販売開始
●「侵蝕恋愛Ⅲ」執筆/pixivBOOTHにて無料ダウンロード販売開始
●「蛇屋敷」執筆/webアンソロジー季刊誌「carat!」発表
●他、「千年相姦」挿絵とかイラスト関係諸々

【健康面】
●持病の睡眠障害は小康状態。もうこんなもんかと半分悟りの境地。睡眠導入剤を使うのを完全に止める。(やっぱり副作用のが大きかったため)

【私生活】
●引っ越しがあったり身内に不幸があったり後半特に慌ただしかった印象だがおおむね順調。

【総括】
●わたしにしてはまずまずの活動実績なんじゃないかと思う。特にライフワークである「侵蝕恋愛」を二冊刊行できたのは大きかった。


◆来期の活動目標及び目標

【ブログ関係】
●「千年相姦」引き続き連載
●「千年相姦」の挿絵を再開する

【創作】
●「侵蝕恋愛Ⅳ」上梓
●「侵蝕恋愛Ⅴ」上梓
●一回くらいはイベントにも出たい

【総括】
「侵蝕恋愛」の執筆を軸にイベントに出つつイラストも描きつつ……というところか。
ただし小説とイラストを同時進行で進めることは自分の技量的に厳しいので当分の間は執筆に集中してイラストは諦める。できたら「千年相姦」を書籍化してイベントで頒布したいがこちらは予算と自分の健康状態次第。

こんなところでしょうか。
表に発表できることは少ないんですけれど、水面下ではいろいろやってる感じですかね。
皆さんの作品も追わせていただきたいのですが、「侵蝕恋愛Ⅳ」校了までしばらく……今しばらくおまちくださいませ。本当にへたれで申し訳ありません。
あと、最後、ものっそいどうでもいいお知らせなんですが、アリスブックス様にて委託させていただいておりました書籍の通販が終了しました。こちらもご了承下さい。
皆様も新生活や来期に向けていろいろ目標を掲げてみてはいかがでしょうか。
ここまでおつきあいくださりありがとうございました。
2017-03-20 : ■連絡事項 :
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『千年相姦』二章 『クルルー様の冒険譚』 第八夜 ニゲル襲来(2)

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「コロンと交配した」
ニゲルの口から衝撃の事実を打ち明けられたクルルー。
そのことによってクルルーの世界は崩壊してしまったようです。
代わりに今回はニゲルが独白してくれているようです。
ん……? ニゲル?
皆さん薄々勘付いておられたかと思いますがニゲルこと「彼」の独白をお楽しみいただければと思います。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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ニゲル?


二章 『クルルー様の冒険譚』 第八夜 ニゲル襲来(2)


 コロンの身体は、最高だったよ。
 少し、幼いんだね、彼女の身体は。淡い胸に、緩やかな腰、そう、あまり細くないんだ。これからもっと細くなるのかな。よくわかんないけど、そういう身体も魅力的だよね。
 コロンはさ、胸が淡いのに、胸の頂きを含まれるのが大好きなんだよね、あ、あんたなら知ってるよね、それともあんたがそんなふうに手懐けたのかな、うわっ、気持ち悪ぃ、けどコロンに罪はないか、コロンごめん、って、ここにはいないか。
 はははっ。
 コロンってさ、好奇心旺盛で、交配を始める前からなんとなく予想はつく感じだったんだけど、その好奇心の多さが災いしたのかな、どんどんどんどん、のめりこんでいって。最後には、……これはいわないでおこうか。君には残酷すぎるだろうからね。
 来期の春ごろ、答えが出るんじゃないかな。
 コロン自身の頑張り次第でさ、なんて。(※管理人注/コロンが「ニゲル」の仔どもを身籠っていることを暗に示唆している)
 ははっ。
 話を戻そうか。
 あんまり敏感なものだから、何度も何度も胸の突起を啄んでやった。そうするとコロンはかわいい声を出すね。甘ったるいさ。何度も何度も「……ルー、……ルー」って、僕の名前を呼ぶんだ。
 ……正直、愛しい、と思ったよ。そんなに誰かに求められたことはなかったから。
 僕の親、……ああ、『君と一緒で』僕も『養親』に育てられたんだけどね、ほら、君はサリーのパパとかママを一度も見たことがないだろう? (※管理人注/本物のニゲルとサリーは兄妹)それにはそういった理由があったっていうわけ。……うん、きっとそう。なんだろう、よくわかんないな、とにかくそういうものだって納得してよ。
 で、あんまり僕を求めてやまないから、僕も本当に彼女のことが好きになってしまったんだ。……チコとはまた違う意味でさ。見ただろう、あの短い黒髪の、雌キトゥンのこと。彼女のことは、自分と似た境遇に共鳴を覚えたって感じ。コロンは……、正直、憎しみすらあったよ。あまりにもてるもの特有の思考回路を振りかざしていたからね。彼女は、僕に。
 だから「僕の側」に引きずり込んででやりたいと思ったのかもしれない。おまえの幸福はそうであるから「そう」であるだけなのであって、本質じゃない、ってね。見方を変えればこういうこともあるんだよって、そういうことを教えてあげたつもりなんだ。
 チコのことを話すことによって。
 ……身体に刻み込むことによって。
 ……チコのことだけどさ、僕、この前彼女のこと『過ち』っていったよね。それは、チコ自身が自分のことをそういっていたからなんだ。自分の存在を『過ち』だって……。じゃあ、何が『正しい』なのかって、反対に訊き返してやったよ。そうしたら彼女、なんていったと思う。
 コロンとコロネが正しいって。
 そうしてこうもいっていた。
 コロンのお母さんに申し訳ないって。(※管理人注/チコはパパの隠し子)
 彼女、左腕に包帯巻いてたでしょ、え、気付かなかった?まあとにかく今度見てみてよ、って、「今度」があったらの話なんだけどさ。

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 だから彼女、自分の存在が申し訳なくて、そう思うたびに「じしょうこうい」をしていたみたいなんだ。
「じしょうこうい」の意味はわかる?
 自傷行為。
 自分で自分を傷つける……、おおよそ、キトゥンの本能とは真逆をいくような行為だ。
 けれど彼女はそうすることによって、キトゥンである自分自身を越えたところへ行こうと思っていたんだ。
 キトゥンらしい幸せの在り方を自ら放棄することによって、コロンとコロネ、そうしてコロンのお母さんに贖罪してるつもりなんだ。……これは僕の推測。チコはそんなこと、いわない。彼女、ああしていて、押し付けがましさとは無縁のキトゥンだから。あんたのかりそめのママみたく、毎日毎日これみよがしにごってごてした料理をこさえるばかりが脳の雌に比べると、なんとも控えめな生き方だと思わない?
 ……けど、さ、そこにはもう一つ裏があるんだ。
 つまりチコは、そうすることによって、コロン姉妹とママを攻撃していたってわけ。
 あの傷つけられた腕は、彼女にとって自分の外部に広がる世界の象徴でもあるんだね……、彼女は、世界を憎んでいる。
 ……僕にはよくわかる。
 僕も、……そうだから。
 えっ? チコのことになると、妙に冗長になるねって? うるさいな。そりゃ、迷い込んできた僕を招き入れてくれた存在じゃないか、それはまあ、それなりに、情めいたものは、ね……。
 え? 恋?
 ……違うよ。
 ……違う、と思う。
 だって、チコは……。
 ああ、あんたが変なこというから、何を話していたのか忘れてしまったじゃないか。そもそも僕は調子に乗ったあんたを諫めるために話をしていたっていうのに。これじゃまるで、反対に僕があんたに諫められてるみたいだ。
 それよりあんたさあ、さっきから一歩も動かないね。
 それ、なんで?
 演技にしても堂に入りすぎてない?
 え? それよりも話を続けてよって?
 うるさいな、なら、動けよ、喋ろよ。
 コロンとは幾度も交わったよ。何度も何度も何度も……。
 場所は、まあ、いろんなとこ。
 チコの目には触れないとこでやった。
 嫉妬? 違うよ、チコはさ、その辺りの感覚がぶっ壊れてるんだ。何しろ僕の目の前でほかの雄を自ら連れ込むような雌だからさ。まあ、そういうところも興奮するんだけどね。そう、そういうところも、僕、好きなんだ。
 背後から、横から、時には向かい合って、時間をかけてコロンを籠絡していったよ。
 コロン、もう、最近はわけがわからなくなっていたんじゃないかな。
 何が正しくて、何が間違っているのか。
 自分たちの幸福の陰で、泣いている存在がいるっていうことを、彼女は最も残酷な形で突き付けられてしまったんだ。……「チコ姉さん」のことを。
 けれど僕はこうもいった。君の罪じゃないよ、って。ましてやパパの罪でもないって。けれどコロンは、「チコさんは自分のことを『過ち』って思い込んでいるのでしょう? それ自体が罪なのよ……」
 僕はそれに対して反論することができなかった。
 どうしてだろう。
 コロンから天真爛漫なところが失われていけばいくほど、コロンの顔から笑顔が消えれば消えていくほど、僕はコロンのことが好きになっていった。コロンが涙を流せば流すほど、愛しくって堪らない気持ちになっていった。
 コロンが欠ければ欠けるほど、僕は満たされていったんだ……。
 きっと僕は、コロンの「破片」を、僕自身が抱えもつ「空洞」と同じ形にしたかったのかもしれないね。
 元々、あんたのためだけに用意されていた「破片」を、僕の側の「空洞の形」に引き寄せてしまったんだ。
 ……どこかに忘れてきた、あの人と同じ形に、……近づけたかったんだ、僕が、……僕自身が。
 え? それは誰って? あんたには関係ないだろ。それに僕だってもう覚えていない。
 もうずっと昔、……六年くらい前だから。
 六年。
 もう、六年。
 まだ、六年。
 どうかな。
 よく、わからない。
 いまだに、どうすればよかったのか。
 だけどもう最近は……。
 ここいらにいる雌たちの破片の形を、僕の空洞と同じ形に一々整形するのも疲れてしまった。
 ……ここいらっていうのは、もちろん、この村のことだよ。
 嫌だなあ、そんな、具体的に名前を挙げるわけにはいかないじゃないか。
 ええっとぉ、まずコロンでしょ、それから……って、口に出してるね。でもここから先は本当に秘密。
 この村は狭いから、さ。すぐに噂が広まってしまう。
 もう広まってるんじゃないかな。
 だけどここいらの雌たちは、ちょっといじると、すぐにぼろを出すね。その「破片の形」を。
 どんな形をしてるのか、それを自ら話してくるんだ。
 コロンは満たされすぎている自分に無意識に不満を抱いているようだった。
 自分の容姿に劣等意識をを抱くあまり、学問に逃避している雌もいた。
 自らの日常にうすらぼんやりとした違和感を抱いていた雌もいた。
 お姉さんと自分を重ね合わせて見ている雌もいた。
 えっ? それってコロンの妹のことじゃないのって? だからいったでしょ、具体的な名前はいわないって。いくら訊いても、それは彼女たちの名誉のためにも絶対に口を割く気はないよ。
 さすがに、この妹にはいえなかった。君のいう『お姉さん』はどっちのお姉さん、だなんて。彼女の世界をかき回すのは、さすがに、気が引けた。何しろ自分とお姉さんを重ね合わせて見ているような雌なんだ、そんな沈み込んだ雌が二匹も一挙に沸いたら、さすがにパパが勘付くでしょ、勘付かないか、あれは。悪いキトゥンじゃないんだけどね。彼はその外見に似つかわしくなく本当に朴訥で純粋なキトゥンだと思う。……どちらかというと君に近い。
 だから、ああいう種類のキトゥンは、たとえ雄としては優れていても、雌は慎重に選んだほうがいいのかもしれない。……自分自身が抱えきれなくなるから。
 そうしてこぼれた「余剰」が、ここのやたらうら寂しげな「チコの庭付きの家」ってわけ。
 かわいそうに、チコは今でも「パパ」の呪縛から逃れられない。
 僕が──の呪縛から逃れられないのと同様に……。
 さあクルル—。
 話はおしまいだ。
 君のせいで、なんだか余計なことまでいっぱい話してしまった気がする。
 君があんまり動かないからだ。
 君があんまり喋らないからだ。
 君には最初から、むかついていたんだ。
 唯一無二を目指して、一心不乱にコロンを愛していた君が、疎ましかったんだ。
 だから、僕の目の前から消えて欲しいんだ。
 家に帰りなよ。
 ……僕も、さすがにもう、ここにはいられないかもしれない。
 なぜって、君が動かないからだ。
 ……だけど、僕はどこに「還れば」いいんだろう。
 ……どこに。


【ちょっと解説】
おわかりいただけましたでしょうか。
実はこれまでの「クルルー像」は、クルルーが本物のニゲルから言伝に聞いた話を盛り込んで捏造した姿でした。(代わりに本物のニゲルに空きができるのでクルルーはそこに真の自分を当て嵌めて補完した)。二章の始めっからその体験ほとんどはニゲルのものだったんですね。 一部クルルーの体験や心理も盛り込まれてますが。なんでそうしたかというと、多分本当のことを話してレフィナに嫌われるのが嫌だったからでしょう。


170314_1.jpg 
本物のニゲルはこれ↑。
本物のニゲルはクルルーの手により崖から落とされてしまいました。
前回クルルーが樹木を挟んでニゲルを壁ドンしたんですがその衝撃で樹木ごとニゲルが落ちてしまったんですね。(なので前回ニゲルの世界も文字通り「崩壊」し、本物のクルルーの語りに完全に切り替わった。でもレフィナの手前、一応「ニゲル」語りという体裁を保っている。ややこい)
分かりづらいと思うのでご質問ございましたらどしどしお寄せください。
ニゲルの生死は。クルルーの本当の気持ちは。
様々な謎を孕みつつ次回「二章 クルルー様の冒険譚」は終幕を迎えます。

次の更新は4/1(土)を予定しております。

2017-03-15 : ■千年相姦 :
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『千年相姦』二章 『クルルー様の冒険譚』 第八夜 ニゲル襲来(1)

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「第八夜 ニゲル襲来」突入です。
ニゲルにもたらされた「繁殖成績」という尺度、クルルーとニゲルの関係性の謎。
様々な疑惑を孕みつつ、今回急展開を迎えます。
佳境を迎える第二章、どうぞお楽しみください。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)コロンのママ
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チコ(18〜9歳)ニゲル(18〜9歳)


二章 『クルルー様の冒険譚』 第八夜 ニゲル襲来(1)


 コロンとの仲は険悪になっていく一方だった。その一方で、パパやママやコロネとの関係は一貫して良好の一途を辿っていくばかりだった。けれど肝心のコロンと僕の関係がうまくいっていない。
 原因は明らかだった。
 コロネの手ほどきを巡ってだ。
 ある日思い切って尋ねてみたことがある。
「どうしてそんなに三匹ですることにこだわるの」
「……!」
 コロンは僕の頬をひっぱたいた。なぜそんな仕打ちを受けたのか、心底意味がわからなかった。
 僕はもちろん、秘められていた「宝石の一粒」の想いをきちんとコロンに伝えもした。
 コロンは涙を流して喜んでくれた。
 問題は解決したと思っていたのだ。
 パパもママも「焦らないで」とコロンに助言してくれている。
 キトゥンは元来身ごもりにくい種族なのだ。
 そう、焦り。
 なんだか最近のコロンは、彼女特有の朗らかさが失われてきているのだ。なのに交配時のいやらしさは増していく一方で、もはやなんのために交配をしているのかわからなくなるほどだった。
 気持ちがいいから交配をするのか。
 仔キトゥンをたくさんこさえるためにより多くの交配に挑むのか。
 はたまた「繁殖成績」を上げるためなのか。
 今ならわかる。
 コロンは雌の業に囚われていたのだ。
 コロンは「繁殖成績」の罠に囚われていたのだった。

※※※


「ママ、相談があるんです」
「コロンのことね」
「はい……」
 ある晩のことだった。「月夜の散歩」の途中で、とうとう僕はこの家にとっての雌キトゥンの先達でもあり先駆者であるママに、思い切って率直な意見を伺ってみようと思ったのだった。
「コロンって、昔からあんな仔でしたか」
「好奇心旺盛な仔ではあったわ」
「天真爛漫で」
「朗らかで」
「明るくて」
「ちょっとわがままで」
「いえ、それは違うと思います。えーと、自分の意見をしっかりもっていて」
「うふふ。ものはいいようね」
「つまり、あんなふうに、何かに悩んでそれをずっと引きずる、なんてことは、一番彼女に似つかわしくない状態だと思うんです」
「……」
 コロンのママが悲しげに眉を顰めた。
 そう、ここ最近のコロンの変貌ぶりは、深刻な危惧感を周りの者に抱かせてしまうほど危ういものだったのだ。
 やたらと怒っていたかと思えば、急に静かになる。落ち着いたかと思った途端、今度は泣きじゃくりながら誰かれ構わず当たり散らしたりする。
 それはコロンの心の乱れを反映したものではないのか。
 コロンは何かに悩んでいるのだ。
 正解がどこにあるかわからなくて、それで思い悩んでいるのではないだろうか。
「……正直ね、コロンからコロネの手ほどきの話を聞いたときはね、戸惑いもしたのよ。わたし自身、昔いろいろあってね……。けど、反面うれしくもあったの」
 複雑よね、と肩をすくめながら苦笑する。
 事情をその実知っている身としては黙っているよりほかない。ママだって僕が、その裏に含む「ジジョウ」を知らないであろうことを前提にこういったいい回しをしているのだろう。当たり障りのない相づちを打つのが精々だ。(※管理人注/パパの昔の浮気事件のことをいってるんですね)
「あなたみたいな素敵な雄キトゥンに、娘たちのすべてを委ねられるのなら、親としてはこれ以上安心なことはないじゃない?」
「親」という単語に、僕の中の失われた部分がちくりと痛んだ気がした。だけど気のせいだろう。「幻肢痛」というものだ。
「よその雌を手ほどきするのとは意味が違うもの」
 そのよその雌の手ほどきが手ほどきじゃなくなってしまった雄もいるのだ。
 ……多分。
「けれどコロンはねえ……。ちょっと、拘泥しすぎなんじゃないかしら。あなたはコロンが一番大事で、だからこそコロン以外の間には仔キトゥンを作りたくないそうじゃない?」
「はあ……まあ」
 そんなことまでもう伝わっていたのか、と、母娘の奇妙な絆を垣間見た思いがする。
「そういうのも愛の形の一つなのよ、って、わたしなりにあなたの思いを咀嚼して伝えたつもりなのよ。だけどあの仔はなんていうか……」
「繁殖成績」
「……! そう、繁殖成績。クルルーあなた、難しい言葉を知っているのね」
 コロンのママが目を見張る。僕は照れてしまって「う、受け売りです。……サリーの」
 ……の兄のニゲルから、という部分は割愛した。
「繁殖成績の罠にかかるとわたしたち雌キトゥンは一気にだめになるわね。自分の本当の気持ちがわからなくなる」
「え……」
「雄のあなたにはわからないでしょうね」
 それは、決して嫌味ないい方ではなかった。ただ冷静に、どうしても越えられない壁が両性間にはあるのだ、ということを噛み砕いて教えてくれている大人キトゥンの顔だった。
「雄はね、そのあたり、もっと単純なのよね、裏がないっていうか、馬鹿っていうか」
 馬鹿、とずいぶんあけすけにいう。その笑顔は、なんていうか初めてママが僕に見せる「大人キトゥンの雌」の顔だった。
 ママは僕に対して、まるで同年代のキトゥンに話すみたいに、今、心を割って話してくれている。
「だからわたしも受け入れることができたのね、パパを。パパは自分の持ち物に対して順位をつけるって発想っていうか、そんな知恵すらないのよ。自分の持ち物は全部大事、平等、そのすべてが愛の対象……、ごめんなさい、難しいわね、こんな話は」
「う、うん、ム、ムズカシイナー」
 なんっって白っじらしい! だけど「わかりまーす」というよりは遙かに良かったに違いない。
 けれどコロンのママのいうことはなんとなくわかる気がした。僕もまた雄だからだろうか。
 僕はコロネの身体に興味があるけれど、そこには本当に深い意味はなかったのだ。愛、とか、ましてや、恋、ですらなくて、でもまったく愛情がないかというと、決してそんなことはなくて、どちらかというと好奇心に近い。だけどコロンの「欠けた欠片」に敵うものをどうしてもコロネの「肉体」以外の中に見つけることができないのだ。それでいまだコロンにだけ愛を捧げているというだけのことだったのだ。
 そんなことをかいつまんでママに話すと、
「あなたは変わった雄だわ。その年齢でその域に達するなんて」
 と、まるで老キトゥンを見るような眼差しで僕を見る。
「い、いえ、初めて出会ったコロンが、たまたま最高で最愛だった……、だけです」
「……」
 コロンのママの瞳が寂しげに揺れた。月明かりのせいだったのかもしれない。僕はそれに気付かなかったふりをしながら、それとなく森の小道を二匹で歩み続ける。
「……コロンは何が不満なのかしらね。あなたの一身の愛をそんなに受けて。身も心も満たされているはずなのに」
 いつもすごい声を上げているから。
 今、ママ、すごいことをいわなかった?
「あの仔は本当に『繁殖成績の罠』に陥っているのかもしれないわね」
 クルルー。
 ママが矢継ぎ早に僕の名を呼ぶ。
「ねえ、最近、新しい雄がこの辺りに来たんじゃない? そうじゃなくても、そういった噂をあなた、聞いてない?」
 なぜかニゲルの顔が浮かんだ。
 だけどあいつは「新しい雄」じゃない。
 ずっとずっと昔からこの地にいる雄じゃないか。それこそサリーの兄なんだから……。
 むしろ新しいのは。
 あれ。
 なんだろう、これ。
 地面がぐにゃりと歪む。
 平衡感覚が薄くなる。
 ねえ、クルルー。
 ママの声が遠くから、それでいてやけに近くから聞こえてくる。
 雌はね、理詰めでは到底およびもつかない堪らない気持ちになってしまう「悪魔の雄」をそれぞれの内部にみんな飼っているの。その「悪魔の雄」は自分を不幸にする存在でしかないと本能でわかっていながら、雌たちはひとたびその罠に嵌ると自力で這い上がるのは困難を伴うの。そういった雄はそれぞれの雌によって容貌も性格もそれぞれ異なるの、だってそれは雌の弱点を補う形で目の前に現れるから。けれど、一度そんな雄が目の前に現れると雌の本能がうずくの。この雄の仔どもを産みたいって。その雄の仔どもを産むことこそがわたしの幸せなんだって。その雄の仔どもを産むことしか考えられなくなるの。それは錯覚だってわかっているのに、けれどそれこそが真実だったのかもしれないと、いつしか絶対的なうずきの前でその雄の前にひれ伏さざるを得なくなるの。そうしてそんな相手がわたしにとって。
「クルルー貴方なのよ」
 という声が聞こえた気がしたのは、それは幻聴だったのだろうか。
 月がぐらりと傾く。
 木立が横転して僕はそうして語るべき言葉を失った。

※※※

「はっ」
 僕は寝台から跳ね起きた。
「はっ、はっ、はっ……」
 肩で息をついている。横合いの水差しから水をくむ。
「はあ……」
 こぼれでる水を口で拭っていると、ようやく心身共に落ち着いてきた。とはいっても、全身は汗だくだった。
 健やかな寝息が横から聞こえる。コロンの横顔が愛しかった。
「なんっていう夢だ……」
 だけどそれが夢だったのだとしたら、どうして僕は知っているのだろう。コロンが繁殖成績の罠、もっというなら雌特有の業に囚われているんだってことを。相談自体は数日前にしていたということなのかもしれない。
「……どうしてなのコロン。僕の仔どもだけじゃ嫌なの……」
 コロンの髪をかきあげる。
 ……。
 ちょっと待て。
 今、僕はなんていった。
『僕の仔どもだけじゃ嫌なの』
 どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
 どうしてそんな最悪の事態が頭に浮かんだのか。
 けれど一度浮かんだ災厄は頭の中で具体性を増していくばかりだった。
『最近、新しい雄がこの辺りに来たんじゃない?』『ただいま〜』
 コロンのママの言葉とニゲルのふざけた声が交差する。
 僕の中でなぜかニゲルは「新しく来たばかりの雄」になっている。
 それはつまりこういうことなのではないか。
 あいつは放浪癖がある。この地で生まれ育ったはいいけれど、いつもいるかいないかわからない、ふらふらふらふら。サリーだっていっていたじゃないか、好奇心の赴くままにそこに赴く癖があるって。つまりほとんどこの村にいることがない。
 そうして帰ってくるたびに、仕入れてきた噂話をのべつまくなし村のみんなに話して回って、ひんしゅくを買っている。
 あいつのいい回し。
 僕の価値観を、一瞬とはいえ、一挙に突き崩してしまうような、あの、巧みな話術。
 法螺ふき。
 そうだ、それこそがあいつのおっかなさの正体だったのだ。
 悪気なく「仕入れてきた法螺」を誰かれ構わずいいふらして、そのたびに平和なキトゥンたちの生活を翻弄する。
 きっと、コロンも……。
 そもそも、繁殖成績、なんて難しい言葉、僕一匹でなら絶対に辿り着いていなかった言葉だった。
 僕はあの難しい、それでいてそれっぽい屁理屈の権化のような概念を誰に学んだのだったか。
「ニゲル……!」
 僕の中で怒りの矛先が明確になっていく気がした。
 不思議な力が沸いてくるようだった。
 僕が真に説得すべきは、コロンじゃなくてあいつだった。
 あいつがすべての元凶だ……!
『ニゲルほど弱くてあしらいやすい雄もいないわよ?』
 君はニゲルを侮っていた。
 だから「罠」にかかったんだ。
 急がなきゃ。
 明朝、決行だ。
 僕はニゲルに真偽を問わなければならない……。

※※※

「ニゲル!」
 僕は村中を駆け回る。
「ニゲルニゲルニゲルニゲルニゲル!」
 これほど何かに駆り立てられたことはこれまでの中で一度もなかった。僕はいつもぼーっとしていて、内気で、なんの取り柄だってなかったけれど、けれどそれは僕自身が僕の可能性にふたをしてきたからなんだ。
 僕はたしかに優れた雄でも強い雄でもない。
 けれど僕は手に入れることができた。
 キトゥンの本能を乗り越えたところにある、「真実の一粒」を……。それはコロンだ。
 僕はコロンを救うために今、闘っている!
「ニゲルっ! 見つけた!」
 なぜそこがわかったのか。
 勘と、あとは散りばめられていた数少ない情報と痕跡を頼りに僕がその一点を目指したからにほかならない。
 急斜面に張り付くように建っている村の果て。
 パパの『過ち』、チコの家を……。
 その雌キトゥンは、これまで見たこともないような美しい雌だった。
 すらりと伸びた手脚に、肉感を感じさせる豊かな膨らみ、そこから連なるほっそりとした腰に、再びなだらかに広がるのは、小振りの双丘……。
「あ……」
 僕は後ずさる。
 それらの肉体を、黒っぽい衣裳で身体の一部のようにしっとりと包んでいる。
 雌には「悪魔の雄」がそれぞれの内部にいるっていうけど、雄にもいるんじゃないか。「悪魔の雌」が。
 チコは僕にとっての「悪魔の雌」ではない。けれど限りなくそれに近い危険性を秘めた雌だった。
 それは本能だった。
 避けられようのない事実だった。
 そうしてパパは、おそらく「過去」に、自らの内部に巣食う「悪魔の雌」の誘惑の力に絡め取られてしまった……。
 おそらくチコによく似ていた、その魅惑の雌に。
「……」
 チコは言葉を発するでもない。ただ、唇をかすかに開いて、佇んでいるだけだ。その唇はやけにふっくらしていて、それでいて、赤かった。腐りかけのヌイの実みたいに。
「どうしたのそんなに息せき切って」
 気怠げな声と共に奥から出て来たのは、紛れもない、僕が探し求めていたニゲルだった。僕の様子を認めると目を見張り、「外に出よう。……ここにはチコがいるから」促された。
「……」
 後ろを振り返る。離れがたかった。
 チコから。
 強制的に意識を剥がしてニゲルに囁く。
「……君でも他者を気遣うことがあるんだね」
「……あ?」
「今の君のいい方だよ。チコ……、……チコ、さんを、思いやってる感じがした……、今の、いい方」
 ニゲルは無言だった。苦悶の表情に顔を歪めている。
「……ああそうかよ」
 その声は苦しげだった。
 自分でも納得がいっていない、というふうに。
「何しに来たの、こんな朝からさあ……、これから交配しようと思ってたのに」
 腕を伸ばした衣服に、寝乱れた皺がいっそう目についた。
「ふざけるな! 朝から……、いや、別にいつでもいいんだけれど、僕は畑仕事があるから、……じゃなくてっ、ニゲルっ、君、僕にいうことがあるだろう!」
「いうって何を」
 ニゲルは欠伸をしながらまるで緊迫感がない。伸びをして朝陽を眩しそうに浴びている。
「わかってるくせに!」
「……それを白日の元に晒すことがあんたの望んでいることなのか」
 突如切りつけるような眼差しを向けられた。怯みそうになるのを僕は勢い制し、立ち向かう。
「そうだよっ、全部をこのお日様の下に引きずりだして、君を諫めてっ、コロンを苦しみから解放してあげてっ……!」
「それで」
「それでって、え」
 淡々とした口調が逆に異質で僕は思わず後ずさってしまう。
 そのまま淀みのない歩調で僕に詰め寄ってくる。
 一分の隙もない、張り詰めた空気をまといながら。
「ひっ」
 そのまま斜面の樹木に押し付けられる。こいつに前面を阻まれて逃げる術もない。
「それで、あんたは僕を正して、コロンを苦しみから解放して、それでどうする」
「だ、だからっ、すべてはコロンを迷いから解き放つために……」
「コロンを幸福にするために、コロンを迷いから、解き放つ、……それができるのか、あんたに」
 一言一句たたみかけるような口調だった。樹木がみしみしと軋んだ音を立てた。ニゲルがものすごい勢いで樹木を殴打したからだ。
「コ、コロンは何かよくわからないけれど、今、迷ってるんだ。迷走してるんだ。自分の足元がおぼつかなくて、不安で……」
「つまり自分の価値観が根底から揺らいでいるって?」
「う……ん、そうだ、そうしてそれはおそらく、ニゲル、君が発端なんじゃないか……」
 ニゲルが酷薄そうに瞳を細めた。「ご名答」
「やっぱり……!」
 僕は怒りで我を忘れる。
 嫌な予感がひたひたと押し寄せる。
 嫌な予感が押し寄せてきて、脳髄を浸し、思考を支配した嫌な予感が、嫌な現実を、引き寄せる……!
「ねえクルルー、どうやってコロンの価値観を覆してやったか教えてやろうか」
「いっ、いいっ、どうせ『繁殖成績』の話をしたんだろ! 正しくもない知識を、法螺を!」
「繁殖成績? あんた、いつの話をしてるの? そんな理詰めの話をどうしてしなくちゃいけないの」
 雌相手に。
 そんなものいわぬ囁きが聞こえた気がした。
「やめろ……」
 嫌な予感が止まらない。予感をここで押し止めなきゃ、嫌な予感が一人歩きをして、嫌な想像を現実のものにしてしまう……!
「簡単なことだ」
 ニゲルの唇が薄く刻まれる。
「コロンと交配した」
 僕の世界が崩れた。


次の更新は3/15(水)を予定しております。

2017-03-01 : 小説・「千年相姦」 :
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今日は猫の日

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2017-02-22 : ■Log :
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題名未設定のメモ的漫画まとめ

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2017-02-19 : メモ的断片漫画 :
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続き(7)

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ひとまずこれで終了です。
またきりのいい所までネーム練ったら続きupします。
後日この漫画をまとめた記事も上げますね。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
2017-02-18 : メモ的断片漫画 :
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『千年相姦』二章 『クルルー様の冒険譚』 第七夜 チコ(3)

【これまでのあらすじ】
『交配の旅』から七年ぶりに〈千年森〉に帰郷してきたクルルー(キトゥン・18歳)。
養親・レフィナ(自称ニンゲン・年齢不詳)との再会を喜ぶのも束の間、七年の月日は一人と一匹を大きく隔てる。
そんな中クルルーが「レフィナを(寝物語で)満足させることができたら、レフィナの顔を見せてもらっていい?」と話を持ちかけ自らの旅の話、題して『クルルー様の冒険譚』を語り出す。ここまでが第一章。

そして第二章『クルルー様の冒険譚』に話は進み、視点は七年前、11歳のクルルーに移行する。
クルルーは旅先で雌キトゥン・コロンと出会い交配を成立させる。そんな二匹を見つめる不穏な眼差しが……。

二匹の交配を見つめていたのは「ニゲル」という名の美貌の雄キトゥンだった。
本能的危機感でニゲルから逃れる必要性を感じたクルルーはコロンに「逃げよう」と訴えるも軽く一蹴される。なんとニゲルは、コロンの友達・サリーの兄だというのだ。彼は「お隣」に住む昔なじみの雄だと。
だがニゲルの危険性をなおも訴え続けるクルルーにコロンが提案する。
「わたしの家にいらっしゃいよ!」

コロン一家に招き入れられたクルルーはパパやママ、コロンの妹コロネ、更にはニゲルの妹であるサリーとの交流を通してキトゥン社会に根を下ろしていく。

そして月日は流れ六年。
クルルーは17歳になっていた。
異様に美しいパパの過去の浮気疑惑やママの底知れなさ、コロネの「手ほどき」を巡っての諍いなど小さな問題を孕みつつみも彼はとりあえずの平穏な日々を送っていた。
そんなさなか彼はニゲルの「爪痕」を発見する。
ニゲルはコロン一家の「お隣」であるにもかかわらずここ六年間クルルーは一度も彼と顔を合わせたことがないのだ。
これは一体どういうことなのか。
爪痕に脅威を覚えるクルルー。
彼の不安に呼応するように爪痕を見つめるクルルーの背後に忍び寄る影が……。
【今回登場する登場人物】
 
クルルー(17歳)   ニゲル(18〜9歳)

二章 『クルルー様の冒険譚』 第七夜 チコ(3)


 二度あることは三度ある、というけれど、それは一度あったことは二度ある、ということでもある。
 それは突然訪れた。
 ひっ……。
 これ、こ、こ、この、……感触!
 頭が警報を鳴らしている。けれど頭の中のつんざくような警鐘に反して、肝心の身体がそれに対して応えることができない。
「一度あることは二度ある、……よねぇ」
 僕の思考を読み取ったようにねっとりした声が耳元に響き渡る。その直後に頸椎に牙を立てられた。
 またかよ!
「グルルルルッ」
 抵抗する意志はなかった。けれど雄の本能としてどうしても反射的に唸り声をあげてしまうのだ。決して痛かったからではない。
 断じて。
「ヌイの実はおいしかった?」
「ひっ……」
 おかげさまであのときはコロンの身体が復調して交配に再び及ぶことができました、とはとてもじゃないけどいえなかった。仮にも、ライバルの雄にもらった果実に対して。
「ただいま〜」
「おっ、おっ、おっ……、おかえり、なさい、ませ」
 耳元でぷっ、と吹き出す気配があった。
「あんた本当にさあ、……相変わらずっていうか、……畑仕事は楽しい?」
 付け足しのように訊かれる質問にも僕は律儀に答える。
「うまくいけば、このまま計画通りに出荷だって……」
「そう、それはよかった。あんた真面目だよねぇ、僕にはほんと、無理」尊敬するよ、囁かれる。
 嫌味だろうか。
 まったく、いけすかない。
「き、き、君こそ、毎日毎日毎日あっちいきこっちいきふらふらふらふら……、ど、どこに行っていたのさ」
「僕? 僕はまあ……、こっちの事情が、ね。それなりに。あ、そういえば、この間コロンのパパとすれ違ったよ」
 すれ違った?
 会った、じゃなくて?
「な、何かパパはいって……た?」
「何もいうわけないでしょ。無言で通り過ぎただけ。そりゃ、お互いに……、ね。あんたのいう、畑仕事の産物であるお野菜をたくさん持ってたし」
「『お』野菜って、……君がいうとなんか……」
「あ?」
「ひっ」
 こいつの「あ?」は本当に怖い。
 そうして僕は同じ印象をほかの誰かに抱いたことがあったのを思い出したのだけれど、それが誰であるのかまでは探り当てることができなかった。(※管理人注/この「あ?」はクルルーの養親レフィナの口癖。それをなぜニゲルが踏襲しているのか? なんとなく思いを馳せてみてくださると嬉しいです)
 そんな余裕はない。
「だから尊敬してるんだって。僕なりに……ね」
「……」
 こいつにしては消え入るような優しい口調に、ふいに肩の力が抜けた。あてがわれていた牙もいつの間になくなっている。
「ふ、ふ、振り返ってもいい」
 一応確認を取る。
「好きにすれば」
 以前会ったときは昼間だった。そのときのこいつは、肌の白さがやけに目立って酷薄な印象が際立っていたものだけれど、今日のこいつはどうだ。
 夕日のせいか少しだけ寂しげに見える。濃く落ちた陰影がこいつの無表情を思わせぶりなものに見せている。
 まったく、美貌の雄は何をしていても「はまる」。狡いな、と思った。
「ねえ、訊いていい、どこに行ってたの」
 サリーが心配するよ、そんなんじゃ、とお節介をかく勇気は僕にはない。
「ねえ、訊いていい」
 オウム返しにされる。まったく、いちいち嫌味な奴だ!
「なんでコロネを喰わないの」
 僕はぽかんとする。
 畑に立てられた鳥除けのかかしに今ならなれる。
「く、く、く、くくくくくくっ」
「何、その『く』の連続は、自分の名前のことなわけ」
 わかっているくせにわざとそんなことをいう。
「喰うって、喰うって!」
 そりゃ、意味はわかるけど! さすがに鈍感な僕でも!
「こんな千載一遇のチャンスもないのに」
「あのねえ、チャンスも何も、僕は唯一無二を貫き通していたいんだ!」
「は?」
「唯一無二だよ! 知らないの?」
「いや、そんな得意そうな顔でいわれてもさ……、わかるよ、で、その唯一無二がなんだって?」
「元はといえば君がいってたんじゃないか。……君、本当はコロンのことが……大好きだったんだろう?」
 先ほどのこいつの一瞬の優しげな口調もあいまってつい滑り出るように口に出していた。
「……は?」
 その後ニゲルが急にけたたましく笑い出した。あまりに禍々しい哄笑に鳥たちがバサバサと飛び去ってく。
 やっぱりいけすかない奴だ!
「何、何それ、どこが出所なわけ」
「だって、君の妹のサリーがそういって……」
「ああ、あの雌」
 と、まったくサリーに似ていない切れ長の瞳を空に向けながらいう。「あいつ意外といい身体してるんだよ」
 まったく脈絡のないせりふだった。それに何よりその内容が聞くに耐えないものだった。それにしてもいくら兄だからといって、妹の身体をして「いい身体」なんていうものだろうか。どういう意味でいったのだろうか。
 ……僕はその意味を知っているんじゃないのか……。
 夕暮れの陰は、長く、濃く、そして、しつこい。
 ニゲルが唇を変な角度に、にっ、とあげる。
「僕だったら、すぐにコロンのお願いごとに応えてあげるけどね」
「……!」
 それは僕が実は一番訊きたくて堪らなかったことなのだ。
 きっとサリー経由で兄であるニゲルにも僕の事情は筒抜けだったに違いない。コロンはなんでもサリーに相談するから。
「パパもママも認めてくれているんだろう? 公認じゃないか。それならほかの雄の干渉を受ける確率もぐっと減る」
 といって、親指と人差し指を近づける。「減る」を暗に表現しているのだろう。小さな豆粒を押し潰したふうにも受け取れる。
「繁殖成績を上げる絶好の機会じゃないか。なんでコロネと交配に及ばない?」
 こいつとの数少ない一緒に過ごした時間の中で、おそらく初めて見るこいつの真摯な眼差しだった。眉を顰めながらも、瞳は真っ直ぐに僕を見据えている。
「は、はんしょくせいせきって……」
 難しい言葉はよくわからない。
「一匹の雌が産める仔キトゥンには限界がある。そうそう簡単にキトゥンは着床するものでもない。だけどコロネがそこに加わるだけで、繁殖成績は格段に上がる。おまけにコロンの身体にかかる負担も少なくなる」
「あ……」
 それは考えつきもしない発想だった。
 僕は毎晩、コロンを相手に何をしていた……?
 苦痛に表情を曇らせていたこともなかったか。
 今日は調子が悪いの、と交配を断る回数も増えていたのではなかったか。
 それもこれも、僕の欲望を、全部コロンが一匹で受け止めて……。
「とまあ、そういう可能性もあるかもしれないというだけで、あんたの愛を独占できてるコロンは幸せだとは思うよ」
 と、着地点があっさり「僕の理寄り」になる。
 僕は唖然として立ちすくむ。こいつの思考回路についていけなかった。
「あんた真面目すぎるんだよ。雄にとってはこれ以上都合のいい展開もないのにさ、って思って」「……都合がいいとか、悪いとかの話じゃないんじゃないかな」
「あ?」
 真っ向からニゲルを否定するようないいかたになったことは否めない。ニゲルは気を悪くしたふうだった。
 だけど僕は冷静だった。
 いい返そうとか、何か一矢報いてやろうとか思っていたわけじゃない。
 僕はこれまでにないくらいに、気持ちが凪いでいた。
 場所が、慣れ親しんだ畑であったことも幸いしていたのかもしれない。
 夕暮れに沈む畑はまた一段と美しい。
 雨期特有の、瑞々しさに満ちている。
 僕はあらためて僕の周りに広がる畑を見渡す。
 そこには僕たちキトゥンの「命の縮図」が広がっていた。
 たしかに育ちゆく豊穣の象徴。パパと僕が丹精込めて育て上げてきた作物たち、……何か特段に面白いことや刺激的な事柄があるわけじゃない。けれど、たしかに続いて、キトゥンたちの命を繋いでいくもの。たとえ多少効率が悪くとも。
「繁殖成績……、とか、そういうんでもなくてさ」
「……」
 ニゲルはその端正な顔をじっと僕に見据えている。
「僕にとってコロンは初めて交配した雌で、初めて出会った雌であったにも拘らず、僕をずっと昔から惹きつけて止まない存在なんだ」
 ずっと昔から?
 それは、家馴染みでもあるニゲルがいうべきせりふなんじゃないか?
 喉に小骨が刺さったような違和感は、けれどすぐに流されていった。それ以上に僕の想いの奔流のほうが強かったからだ。
 たしかな想いを。
「そりゃ、妹のコロネには、……コロンとそっくりなコロネの身体に興味がないかといえば、嘘になるよ。欲望はある、たしかに、……でも」
「でも?」
 怒っているのだろうか。剣呑な眼差しだ。
 怯んではいけない。
 でも、いうんだ!
「でも、その欲望すら上回る想いがあるってことだよ! コロンの笑顔、コロンのちょっと勝ち気なとこ、わがままなとこ、……内気な僕と正反対の魅力を兼ね備えた……、僕を補完する存在」
 補完する存在。
 ああ、それだ。
 僕がずっとずっと昔から、コロンを好きな理由。
 顔のよく似たコロネでもなくて、個性的なサリーでもなくて。
 コロンを産んだママですらなくて。
 涙が溢れてきた。
 それが真実の想いだったからだ。
 それが僕の、たった一粒の、そこにしか存在し得ない宝石の形だったからだ。
「欠けた僕とまったく同じ形をしている欠片をもっているのがコロンなんだ。それは、ほかの誰かで補えるものじゃないし、数で埋め合わせするものでもない、……どんなに相手を変えても、コロンじゃなきゃ、僕のその空洞はぴったりはまることはない……」
 あとは、言葉にならなかった。
 皮肉にも、僕は一番僕が大嫌いな雄を相手に、やっと探り当てた真実を吐露していたのだった。コロンに伝えるべき言葉を。
「ぐすっ、ぐすっ……」
「気持ち悪ぃ」
 もたらされた言葉は、僕の積年の想いを根底から否定するような、悪意と蔑視に満ちたものだった。
 けれどもう僕は屈しない。
 僕なりの引導のつもりだった。
 僕はもうこいつの屁理屈なんかに抱き込まれはしない。
「ニゲル、君はなんだか間違ってるよ」
「ああそうかよ」
 ニゲルの声は吐き捨てるようなものだった。無気力な。
「どこに行くのさ。またそうやって放浪して、自分から逃げるの」
「……はぁ?」
 心底他者を見下すような、冷酷な視線だった。何をどうすれば、ここまで他者を見下すことができるのだろうか。
「チコのところだよ」
「チコ?」
 初めて聞く名だった。
「一度抱いたら忘れられない身体をもった雌」
 薄い笑みを浮かべながらいうニゲルを、僕はぐっと睨む。
 けれどニゲルは余裕の態度で僕の渾身の一撃を受け流す。
 受け止めることすらせず。
「そしてあんたの『かりそめのパパ』がお野菜を届けにいってるとこ」
 時が、停止した。
 そのすべてが。
 申し訳程度に儲けられた、一年に数度の商談の日。数日前の、あの光景。その横に選り分けられていた、売り物にならない不揃いの野菜。けれど、栄養たっぷりで、比較的大きな形をした。
「……パパが分不相応に、その昔こさえた『過ち』だ」
 夕陽が、背中を、焼く。
 心臓の裏を。
 立ち去るニゲルの陰が濃い。
「チジョウノモツレ」じゃなかった。
 コロンとコロネには、腹違いのお姉さんがいたのだ。

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コロンとコロネの腹違いの姉妹・チコ。自傷癖がある?


■次回「千年相姦」更新は3/1(水)を予定しております。

2017-02-15 : 小説・「千年相姦」 :
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バレンタイン2017

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2017-02-14 : ■Log :
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続き(6)

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続く
2017-02-14 : メモ的断片漫画 :
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続き(5)

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続く
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プロフィール

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イラストと小説でオリジナルの世界観を表現しています。時々COMITIAに出たりもします。初めましての方はこちらをどうぞ。
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