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『千年相姦』四章 レフィナの感想(4/6)

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今回、レフィナがとうとう『クルルー様の冒険譚』の感想をいいます。
とその前にこれまでのあらすじと今回の見所を少し。

チコに似た黒髪の人物と邂逅する不思議な夢から目覚めたクルルー。時系列はここで「現在」に戻り、クルルーとレフィナは朝の散歩に出かけます。レフィナが歩くたびに〈千年森〉は命が塗り替えられていく。やはりレフィナの神秘は「本物」だった。養親のあまりに神秘的な姿に目を細めるクルルー。ここまでが前回。

今回二人は、ヌイの実がたくさん実ったスポットまでたどり着きます。朝食を摂るためです。
お忘れの方も多くいらっしゃると思いますが、ヌイの実はブルーベリーに似た果実でクルルーの大好物。クルルーは、これの更に腐りかけが好きということで、レフィナがまたまた魔法のような力でヌイの実の腐敗を一気にすすめます。
和やかな朝の風景。
しかし……。

これまで森の賢者然としていたレフィナの「らしくない」姿をご覧ください。それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(18歳)レフィナ(年齢不詳)


四章 レフィナの感想(4/6)


 そこに辿り着いたとき、僕は、神秘に言葉を失ったのとはまったく別の意味で息を呑んだ。
 正確にいうと唾を飲み込んだのだった。
 いまだ体内に取り入れてない甘味に、けれど身体が期待にうごめきごくりと喉が鳴る。
「さあ、好きなだけ喰え」
 レフィナがさっと腕を広げた。途端、連なる低木群が塗り替えられたように次々と腐敗を進めていった。やはり不可思議な光景に、けれど好物を目の前にした僕には、レフィナのその姿はまるでヌイの実の精霊よろしく、跪くべき対象のように映って見えたのだった。
「い、いただき、ます」
 いうや否や、無心になって僕はヌイの実を食し始めた。ぷちぷちと、一粒一粒もぎ取ってはその極上の赤い実を口に放り入れていく。その横で、レフィナもまたヌイの実を摘んでいるのが目の端に映った。
 これが僕たちの、朝食の風景なのだった。こうしていつも二匹でこの場所までやってきて、朝の始まりを確認する。
「落ち着いてきたか」
「うん」
 僕は手短に答える。食べることに夢中になっていたからだ。どこもかしこも腐りかけの実ばかりだ。それを可能にしているのは、真横に佇むこの「非現実的な存在」のおかげなんだろうけれど。
「チコにずいぶんご執心だったようだな」
「ああ、うん、彼女のことは本気で好……」
 え……、僕はヌイの実を指先に摘みながら顔を上げた。
 完全にふいをつかれた質問だった。
 レフィナが肩をすくめる。
「ニゲルだ」
「あ、ああ」
「ニゲルという登場キトゥンのことだ。彼はチコの家に滞在していたようじゃないか」
 なんって嫌な奴……!
 僕は直裁な意味において「憎悪」の念を目の前の養親に覚えた。やり方が汚い。
 えげつない。
 そこまで思わしめたのは、それは僕自身が抱えもっていた「疚しさ」からくるものだったのだろうか。無意識に。
「チコはずいぶん美しい雌だったようだな」
「……そう、だね」
 ヌイの実を食す手は、止まっていた。
 下手に口を開かないほうがいい。
 僕はまんじりともしない思いで目前のヌイの実を注視する。
 赤い。
 今はその熟成ぶりが忌々しく映って見える。
 禍々しい。
 ぱっくりと、亀裂を走らせて。
「『クルルー様の冒険譚』の中で、『ニゲル』は、チコのことになるとずいぶん、表現の仕方が感傷的叙情的になる、と思ってな」
「……何がいいたいの」
「『何』」
 レフィナが大仰に肩をすくめてみせる。おどけてみせているつもりなのだろう。僕はその仕草に深い憤りとも怒りともいえぬ感情を覚える。
「決まっている。『クルルー様の冒険譚』の感想だ。聴き手側としての。話し手は常に観客の動静には気を配っていなければ」
「配っているよ。今のレフィーに。何、そのいい方。面白くなかったわけ」
 おお、とんでもない、とレフィナが道化のような仕草でまたもや肩をすくめてみせる。
 襤褸で表情が隠れているのがせめてもの救いだった。表情が見えていたなら、きっと僕は平静でいられなかったかもしれない。もっとも、今も既に穏やかな気分とは程遠いものだったけれど。
「本当につまらない物語は毒にも薬にもならないものだ。そういう意味では断じて違うと、私はおまえの創った物語をしてそう称している」
「で、毒のほうだったわけ。レフィーにとっては」
「おお怖い。毒だとは一言もいってない」
「薬にもなっていないって?」
「教訓になったとは思っている。つまり、薬に近い読後感ではあったのではないか」
 おお、自分でも気付かなかった、などといって、驚く仕草をしてみせる。
 腹立たしい……!
「教訓になったんならいいじゃないか。僕も話した甲斐があったよ」
 僕はぶちぶちとヌイの実を引きちぎる。実が地面に落ちていく。あらゆるどす黒い感情が結集したかのように、降り積もった赤い実は、赤から深紅に、深紅から漆黒へと瞬く間に変異していった。「ずいぶん気が立っているな。『クルルー様』は何がお気に召さなかったのか」
 芝居がかったいい方だ。しかもそれが僕に伝わっていることをわかっている。意識している。
 なんだ、こいつ。
 なんて、ねちっこい。
 元々嫌味なところがまったくない、というわけではなかったけれど、このレフィナは……。
 ヌイの実じゃないけれど、やり口が腐っている。
 根性がねじ曲がっている。
 卑近だ。
 卑しい。
 そう、貧しく卑怯だ。
 僕をちくちく苛み、苛むことで均衡を取っているような。
 均衡を取るって、なんに対してだ。
 この人が何に対して。
 決まっている。
『クルルー様の冒険譚』に対してだ。
 レフィナの「不均衡」の矛先はなんとなく察しがつくような気がしたのだけれど、同時にそんなのはレフィナにふさわしくない、とも思う自分がいたのだった。
 というより、レフィナみたいに、嫌味で粗雑でときには乱暴で……、とにかく、あらゆる面で親らしからぬ面を多々もった人とはいえ、基本的には高潔な部類に入る精神をもった人には。
 そんな俗的な感情を抱くのはそぐわないと。
 そう思ったのだった。
「……僕たちは親仔だろう」
 この状況、この拍子でこの言葉を吐くことがどんな意味をもつのか。
 わからないわけではなかった。
 少なくとも自分にとっては、それは「否」と同等の意味をもつ止めの言葉だった。
 僕はその言葉によって自分自身に止めを、終止符を打ったのかもしれない。
「親仔、……親仔! そう、それはそうだ!」
 レフィナにしてはことさら甲高い、耳に引っ掛かるような声だった。金属的な感触だけが耳の奥に残る。
 ぷち、ぷち、と、目的もなく地面に落ちていくだけのヌイの実の所在が哀れだった。
 食されることもなく〈千年森〉の新たな命に吸収されていく……。


次の更新は11/1(水)を予定しております。

2017-10-15 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 18 :
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『千年相姦』四章 レフィナの感想(3/6)

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ニゲルを殺した(かもしれない)罪から逃れるように嵐の森の中をひた走っていたクルルーは、雷に引き裂かれ大木の下敷きになってしまう。気を失った彼はそこで延々夢を見ていたようなのだが……。
「……チコ?」
夢の中に現れた見知らぬ黒髪の人物に、同じく黒髪のチコの面影を重ね合わせるクルルー。
ここで時系列は現在に戻り、クルルーは夢から目覚めます。

ここでお気づきの方がいらっしゃるかどうかわかりませんが、クルルーの年齢にご注目ください。
実は前回の嵐のシーンでは彼は17歳だったんです。
でも今は18歳?
つまり彼には、コロンの村を飛び出てから〈千年森〉に帰郷するまでの間に、『クルルー様の冒険譚』ですら語り得ていない、「空白の一年間」があるんです。このことは、なんとなく頭の隅に置いていただけたらと思います。

さて今回から四章の本題です。
レフィナが『クルルー様の冒険譚』に物申します。
とその前に、今回はその前哨戦。
別名「嵐の前の静けさ」回です。
流れを重視したいので、今回は前回のラスト部分から引っ張っています。
レフィナの、冷静な言動とは裏腹の、クルルーを見る汚物のような眼差しにご注目ください。
それと、レフィナの〈千年森〉の主としての姿ですね。レフィナちゃんと仕事してるんやん! って思ってもらえたら成功です。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(18歳)レフィナ(年齢不詳)


四章 レフィナの感想(3/6)


 あんた誰だ。
 ……黒髪。
 黒髪?
「……チコ?」

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 わたしのかわいい鉤尻尾
 わたしのかわいい、かわいい……、鉤尻尾

 子守唄が、聴こえる……。

※※※

「誰がチコだって?」

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「……え……」
「起きろ、クルルー、朝だ」
 養親が僕を間近で覗き込んでいた。養親の、その色素の薄い髪の切っ先が僕の鼻をくすぐる。先端だけ淡く染まった、特徴的な色合いをした長い髪。レフィナのほとんど色素の抜けた髪。
 ……黒髪とは程遠い。
「……レフィナ」
「やっと夢から戻ってきたか」
 え……。なぜレフィナが、僕が「夢」を見ていたことを知っているのだろうか。
「僕、夢を見ていたの?」
「何をいう、うなされていたぞ」
「ああ……」
 そりゃ、そうだ。
 起きている者が、寝ていた者をして夢を見ていたと推測するのは妥当な判断だ。僕はよほど寝ぼけているらしい。
 ようやくここまできて、意識がわずかながら明瞭になってくる。
「夢の中で、夢を見ていた……」
「おまえは複雑な夢を見るんだな」
「うん、意味がわからない夢だった。途中までは、過去を再生していただけだったみたいなんだけれど……」
「……いつの『過去』だ」
 レフィナの声は抑揚がなかった。
「過去っていっても、結構最近のこと。一年前くらい前。雷雨に突然襲われて、見知らぬ森の中で迷ってしまったことがあって……」
「そんなことがあったのか?」
 それは災難だったな、とレフィナが労いがらも不審がる気配を覗かせた。心配しているようでもあり、いぶかしげに感じているようでもあった。「うん、脚も、骨折して、右脚……」
「──、それは」
 息を呑む気配とともに、レフィナが掛布の上から僕の右脚に触れてくる。大腿部の辺りだ。僕はなぜか右脚にかかったレフィナの指先を注視している自分に気付く。布越しなのに、やけにレフィナの指先がひんやり感じられた。
「しばらく、動けなかった……」
 僕は寝乱れていた髪をかきあげ、頭を振った。じんわりと汗が浮かんでいた。
「レフィナ、熱い……」
 レフィナが水に浸した布で僕の額を拭いてくれる。その間レフィナは無言だった。衣擦れの音が部屋に満ちる。「……ありがとう。冷たくて気持ちいい……」
 僕はしばしレフィナに身を任せていた。
 珍しく親らしいことをしてくれている。
 いや、この人は、そこそこ昔から、親としての責務は果たしてくれていたのだ。
 僕が本当に参っているようなときには、決して僕に無体を強いることはなかった。
 つまり今の僕が、それだけ憔悴しきっているように見えていたということなのだろう。厳密な意味で不調だったというわけではなかったので、申し訳なさも手伝って身の置き場を失ってしまう。
 身体は良好そのものだ。
「複雑な」夢を見た割には睡眠も滞りなくとれていたみたいだし。
 ただ、……。
 目覚めが悪かった。
 あの唄のせいだろうか。
「子守唄……」
「なんだって?」
 レフィナが本格的に僕を慮るように眉を顰める。「大丈夫か?」
「うん、平気、大丈夫、全然……」
「……」
 レフィナはなおも僕を無言で見据えたままだ。
「ごめんねレフィー、心配かけちゃったね。朝の散歩に行こうよ。僕、ヌイの実を食べたいな。……腐りかけのほうのやつ」
「相変わらずだな」
 レフィナの周りの張り詰めた空気がふっ、と緩んだ気がした。
 相変わらずの嗜好の僕に呆れたような、安堵の念を抱いているような、複雑な優しさが感じられる声音だった。
 僕は着の身着のまま、森に出た。
 レフィナも相変わらずの襤褸をまとっていた。もちろん、顔をひた隠しにすることは忘れず。

※※※

 朝の日差しの元で見る〈千年森〉の深さは格別なものだった。濃い空気も、緑の衣の厚さも、〈千年森〉外周に点在する小さな森や集落とは比べものにならない。僕はその圧倒的深淵に、しばし言葉を失う。仮にも故郷であるにも拘らず、初めて訪れた地であるかのようにあらためてその畏怖に息を呑む。知れず敬虔な気持ちになり、それが僕に自然沈黙を強いた。
 レフィナが僕の少し前を淀みのない足取りで歩いている。地面を引きずるような長い襤褸をまとっているにも拘らず、よく足を取られないものだ。見慣れた光景であるにも拘らず妙に関心してしまう。
 沈黙はしかし静寂とは無縁のものだった。
 レフィナが歩く先、悉く緑がうごめき、忙しない生と死を繰り返しているからだった。
 そうして新芽の道ができあがる。
 苔や群生している植物に紛れて一見目視しづらいのだったが、レフィナが通る所、まるで刷毛で刷いたように生命が刷新されていくのだった。
 不思議な光景だ、とは思わなかった。
 僕にとってはあたりまえの、見慣れた光景だったからだ。
 それが本来なら有り得ない現象なのだと知らしめられたのは、〈千年森〉外周で生活しているキトゥンたちと接触するようになってからだった。
 僕は悉く、外のキトゥンたちから、変わったキトゥンであるとか、空想癖があるだとかいった、あらゆる表現でもってそれが「非現実的なものである」という認識を刷り込まれていったのだった。
 そちらの「常識」に支配されかけていたほどだ。
 けれどそれはやはり事実だった。
 七年経った今でも養親はその「不思議」を現実のものとして「一新し続けていた」。
 まったく、なんていうことだろう。
 世間を知った上でこの光景を目の当たりにするのと、知らず目の当たりにするのとでは意味が違う。そこには大きな隔たりが生まれる。認識の仕方に。
 僕はこれをどう捉えればいいのか。
 けれどあまりに神秘的な光景に僕のそんな矮小な疑問は洗い流されていってしまう。
 さまつな疑問も通俗的な常識も、眼前に広がる絶対的神秘の前にはなんの効力もなさない。
 きれいだよ、レフィー。
 僕は森色の背中を見つめる。
 瞼を細めていたのは、朝日が眩しかったからかもしれない。


次の更新は10/15(日)を予定しております。
2017-10-01 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 27 :
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『千年相姦』四章 レフィナの感想(2/6)

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ニゲルを殺した(かもしれない)罪から逃れるように嵐の森の中をひた走っていたクルルーは、突然の雷に襲われ気を失ってしまいます。
どうやらクルルーが夢とうつつの間をさまよっているようです。
そしてオープニングでも出てきた例の子守唄が……。
この子守唄を唄っているのは誰なのか。
クルルーに話しかけている赤文字の人物は何者なのか。
〈千年森〉=地図上に存在しないであろう森
ということを踏まえてお読みいただけると、クルルーに話しかけている人物の特異性がお分かりいただけるかとも思います。
文章の稚拙さも相まってわかりづらいんですが、雰囲気だけでもお楽しみいただければと思います。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)????


四章 レフィナの感想(2/6)


 わたしのかわいい鉤尻尾
 ある日 大木のウロに 引っ掛かっていた
 わたしが見つけた 宝物
 わたし 指先に あなたの鉤尻尾 引っ掛けて
 棲処の扉を くぐったの

 あなたの揺りかご 作ったわ
 丈夫な小枝に 温かな木の葉
 森中駆け回って 探したの

 あなたが 逃げてしまわないように
 わたしだけを 信じてくれるように
 わたしだけを 見つめてくれるように

 あなたも いつか 旅に出るのでしょう

 それでも ほんの一時
 わたしだけを 見つめていて
 わたしだけを 求めていて

 与えるわ
 捧げるわ
 庇護するわ

 だからお願い
 わたしだけを 見つめていて
 わたしが作った 揺りかごで

 あなたの旅が 始まるまでは
 せめて
 せめて
 ……せめて

※※※

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「もし、もし……」
「ん……」
「貴方、大丈夫?」
「な……にが」
「うなされているわ」
 うなされて?
 違うだろ、あんたが邪魔をしてるだけだろ。
 僕はだるいんだ。
 だるいなんてもんじゃない、身体がひどく衰弱しきっている。おまけに身体中が火照って熱い。特に右脚なんかは燃えるように熱い。どうにかしてよ、この不具合をさ。(※管理人注/雷の衝撃で大木が右脚に落ちクルルーは骨折をしています。本人はまだそのことに気付いてません。気を失ってるので。これはまた後日)そんなこと心配する余裕があるんならさ。心配、え? 僕、心配されてんの?
 誰に?
 っていうか何に?
 どういうこと?
 うなされてるって、僕は寝てるってこと? それとも夢を見てるってこと? それって一緒のことじゃない?
 そんでもってそれを誰か部外者が見てるってことなの?
 おかしな話だ、だけど、夢って、見ている本人以外、全部部外者じゃない?
 ああ、ものすごいことに気付いてしまった。
 そうか、夢って、全部自分の中の出来事なんだ。
 だから、だからなのかな。
 さっきから乳白色の霧に包まれて身動きをとることができないんだ。
 もう何度目かになるかわからないこの光景。
 そりゃ、呻き声の一つや二つは漏れるって。
 でも、現実と違って、その乳白色の夢の中では声一つ上げることができないんだよ?
 僕が自発的に声を出すのを抑制していたからだ。
 なんでって、……そんなの当然だろう。
 目の前に広がっている光景が、あんまりきれいだったからだよ。
 ううん、きれい、だけだったら、うわあ! とかすごい! とか感嘆符の一つや二つ出しているよね、素直にさ。
 けど、「これ」はそんなものとは違う。
 一線を画すもの。
 だから僕、この光景に囚われて、この光景にもう一度邂逅するべく、こんなにも一生懸命に生きてるんじゃないか。
 無気力で投げ遣りながらさも、僕なりに頑張ってさ。
 せめて最低限、生きていなきゃ、……身体を健やかに保っていなきゃ、永遠にその「光景」に辿り着くことはできない。
 だから何度もこうやって、夢の中でむなしい邂逅を繰り返してるんじゃないか。幾度も幾度もあの日の光景を頭の中で再現することで。
 十一歳のあの日、初めて出会った最低で最上の……、僕の根底を覆したあの光景。
 今でも目に焼き付いて離れないんだ。
 そうしてその光景を想うとき、いつも僕の身体は火照って、でもその熱のもっていき場所がなくて、いつもいつも熱だけ持て余して夢から目覚めるんだ。
「それ」以外の雌たちの身体の中にはいっぱい出してきたけどさ、そういうことじゃなくてさ、僕は「それ」の中に出したいわけ。
 なんでって、そりゃあ。
 え? きれいだったからだって?
 だから、違うって、
 純粋にきれいだけだったら、こんなに悩まないって。
 いったじゃん、感嘆符の一つや二つ吐けば済む話なんだからさ。
 いいか、よく聞けよ、それはさ、汚らわしかったんだよ。
 汚らわしい。
 そんでもってさ、すごくいやらしかったんだよ。
 え? 下品?
 うるせーよ、下品こそいやらしさが最終的に行き着く先だろうが、上品なんてなんの足しにもならねーんだよ、あんただって本当はわかってるんだろ。
 ところであんたって誰だ?
 もしかするとニゲルなのか。
 ……そうなのかもしれない。
 なら、話、続けるよ。
 ……どうせどうやったって、口外することなんてできないんだから。
 永劫に。
 ……。
 そう、いやらしかったそれは、僕の本能を急襲した。
 僕がどれほど苦しんだか、あんたは想像することができる?
 できるわけない。
 毎夜夢に出てきて、僕を翻弄するだけして、それでいて決して触れることは叶わない。
 でも、精神は、心は、昂っているんだ、昂揚しているんだ。例えるなら、生殖器官が身体の内側に縫い止められてて、触れることもできないくせに、熱だけ発してる感じ。
 そんなの、どうやって対処しろっていうの?
 出したい出したい出したい出したい。
 ……放ちたい。
 その人の中に。
 人。
 人、なのか、ニンゲンだったのか、それは。
 レフィナ。
 ……違う。
 違う違う違う違う違う違う違う!
 撤回しろ! 今の言葉を!
 あんたがいったんだろ、レフィナを汚すようなことを。
 あの、誰よりも何よりも神聖で高潔で高みにいる、……それでいて、あんな神々しい慈愛に満ちた、あの人のことを。
 え? 慈愛?
 あったんだよ、あいつにもそういうときがさ。
 本当に僕が小さかったときの話だよ。
 目も見えない、耳も聞こえない、言葉も話せない、……クルルー、クルルーって、鳴くことしかできなかった時代のこと。
 え?
 そうだよ、本当の本当に幼いころ。
 赤ちゃんキトゥンのころの話だね……。
 なんでそんなときのことを覚えているのかって?
 さあ、知らねー、夢の中だからじゃないの。
 失われてしまった幼なキトゥン時代の感覚器官が、記憶って形で残っていたってことじゃないの。興味ないよ、なんでそうなったのかって、そんなさまつなことなんて。
 無意識、ってやつじゃないの。
 そうだよ、その無意識ってやつが、レフィナを汚すな、って、激昂してんだよ。
 ごめんって、別にあんたを責める気はなかったんだ。
 ガキのころの自分が勝手に這い出てきただけなんだ。
 そんだけ、ガキのころの僕にとってはレフィナは大事な存在だった、ってことじゃないの。
 だから、あれはレフィナなんかじゃないんだ。
 あんな、あんな、下品で下劣な姿。
 下品で下劣で、……淫猥で淫蕩で卑俗で卑猥で……ぐちゃぐちゃにかき回してやりたくなるような、あんな猥雑な身体をもった存在が。
 レフィナなんかであるわけがない……。
「レフィナ?」
 ああ、そうだよ。レフィナだよ。
 僕の養親、お伽噺の住人。
 自称、「ニンゲン」様。
 っていうか、事実なんだけど。
「まあ、そうなの、貴方は〈千年森〉に赴かれたことがあるのね」
 オモムカレタっていうか、そこで育ったんだって。
「信じればなんでも現実になるものね」
 だから、信じるも何も現実だったんだってば。
「わたくしもそうなのよ。周りのキトゥンたちは、わたくしのことをすぐにおかしい、狂ってる、って、わたくしをおかしなキトゥン扱いするの。だからわたくし、貴方の仰ることがとても理解できてよ」
「……」
 見慣れない天井。
 湿った空気。
 それから……。
「まあ、意識が戻ったのね、よかったわ」
「……」
 あんた誰だ。
 ……黒髪。
 黒髪?

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「……チコ?」

 わたしのかわいい鉤尻尾
 わたしのかわいい、かわいい……、鉤尻尾

 子守唄が、聴こえる……。


次の更新は10/1(日)を予定しております。

2017-09-15 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 28 :
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『千年相姦』四章 レフィナの感想(1/6)

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新章突入です。
今回は効果音をくっつけてみました。五秒だけでいいので再生してみてください(笑)
ニゲルを殺して(しまったかもしれない)クルルーは、罪から逃れるように村から逃走をはかりますが、折悪しく森の中で雷雨に巻き込まれてしまったようです。
クルルーがやたら哲学的なことをいっていますが、わたしの文章の稚拙さもあいまってえらいわかりにくいことになっています。
難しいことははっきりいって無視してくださって構いません。
ポイントは、
「クルルーが〈千年森〉への帰り道を見失っている」
ここだけ抑えて下さればオッケーです。
皆さんこれまで〈千年森〉は、地図上のどこかにある土地だと思われていませんでしたか?
どうやらそうではなさそうな可能性が浮上しています。
クルルーもそのことで焦っていて、戸惑っています。成長に伴う動物的感覚の衰退が原因であると彼は思っているようですが、果たして真相は……。
このシーンのクルルーは地で語っています。嘘は一切なしです。
ある意味canariaワールドの真髄ともいえる哲学的精神世界をお楽しみください。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)


四章 レフィナの感想(1/6)


 叩き付けるような雨が視界を塞ぐ。ぬかるんだ地面に足を取られ、足を蹴るたびに泥水が跳ねて僕の脚衣をしとどに濡らした。僕の行程を阻むように、森の土すべてが意志をもってその泥濘の腕を伸ばしているようだった。僕の下衣に付着した泥水の染みは、まるで手形を思わせた。奈落の底に落ちてしまって、そこから永遠に這い上がれなくなったモノの。そいつが自分の足元にしがみつき、訴えているのだ。その苦痛を、その哀れを、その理不尽を。
 ニゲル……。
 ニゲルの情念が僕にその名を喚起させたのか、僕のなけなしの罪悪意識がその名を想起させたのか。
 それはない、と僕は知れず唇を歪める。
 自分を省みて立ち止まるという選択肢はあのとき微塵も浮かばなかった。
 だから目的があろうとなかろうと進み続ける。
 進むというのは、少なくともあの「村」からできるだけ遠ざかるということだ。
 今はそれだけでいい。
「鼻」が退化して久しい。
 僕は十七歳になっていた。完全ではないにしろ、もう立派な大人キトゥンだ。尻尾も退化して衣服の下に完全に収まるようになっていたし、耳も退化して顔の横でその存在を申し訳程度に主張する程度だ。
 僕がキトゥンであった証などほとんど残されていない。
 そうしてお伽噺の「ニンゲン」に近い姿になっていく。
 ……あの人に近い姿に。(※管理人注/養親レフィナのこと)
 僕は〈千年森〉に向かっているのだろうか。
 いや、違う。
 そもそも〈千年森〉がどこにあるかわからない。
 僕の気持ちがどこにあるのかわからないのと一緒だ。僕は自嘲する。
 身を包む漆みたいな色をした外套をぎゅっとつかむ。

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雨水を吸ってずっしりと重い。地面をまとっているようでもあり、けれど体温を奪われるよりはましだった。雨を吸ってまるで深紅の血のような色合いに染まっている。それともこれはニゲルの血なのか。
 旅装束は、その辺りに点在していた納屋から拝借した。
 まったく、行きも着の身着のままなら、帰りも行きずりで窃盗紛いのことをしでかして、ようやく旅装束が仕上がるとは。
 急に天候が崩れたのがいけない。
 僕はそれを自然のせいにする。
 虫のいいもので、僕にはまるで罪の意識とか内省の気持ちとかいったその手の感情が沸き起こってこないのだった。
 代わりにこの身を浸しているのは、死にたくないという想いだけ。
 だから村を捨てることになんの迷いもなかった。
 チコに対して後ろ髪を引かれるような想いはいまだあったけれど。
 けれど、生を望むその一点だけが僕の中心にあって、その一点の前にあっては感傷的叙情的な想いなど振り落とされて然りなのだった。
 降りしきる雨が、僕の良心すらも洗い流していったのか。
 いや、きれい事だ。
 なぜなら最初からもち合わせてすらいなかったのものなのだから。だからこそこうしてなんの迷いもなく「村を去る」という選択肢を選び取ることができた。そうして僕のその狡猾な判断の繰り返しが、僕がこれまで生きながらえてきたゆえんでもある。その狡猾な生の過程に今のこの事態があるのだ。これから先も僕は延々と利己的な判断を下していき、最後には自分自身に返り討ちにあってしまうのかもしれない。
 肥大した自己に。
 自己が肥大しているからこそ僕はこんなにも自分のことを徹底して否定してみせることができるのだろう。
 それはあの人譲りだ。
 あの人によって埋められた自己否定の種だ。〈千年森〉外周でようやっと発芽したというだけのことなのだ。
 そうしてそれは、いつしか僕を喰い潰す。
 けれどそう思うと恍惚とした想いに身が包まれるような気もするのだ。
 あの人が蒔いた種に呑み込まれるのならそれもいい。自己否定の花を満開に咲かせた暁に、自分がこの生から消えてしまうのなら、それもいい。
 清廉を目指して有象無象の他者に崇め奉られる生き方などに興味はなかった。反対に有象無象のすべてに否定される孤独の生き方にも怖れは感じなかった。
 ただ、たった一つの目指すものに顧みられないことは、僕にとっては僕の根幹を揺るがす重大事態だった。
 けれどそのたった一つは、ニゲルのいうような唯一無二というものではない。
 唯一無二よりももっと近いものだ。
 それは「対象」ではないからだ。
 それは僕の内部にあるものであり、ただその一点が僕を駆り立てているのだ。それを僕は「欲望」と呼んでいる。
 けれど、その欲望の行き着く先が自分でわからない。
 自分自身が、一番、持て余している。
 欲望の「終着点」が何処に存在しているのか。
 それがわからないのだ。
 森の「何処」に、目指すべき樹があるのかわからないということと一緒だ。
 進めば進むほど〈千年森〉から遠ざかっていくようでもあり、急けば急くほど答えが遠ざかっていくようでもあった。
 ただ、今は、降りしきる雨に身を任せていたい。
 何も考えずに、身体だけを動かしていたい。
 そうしてその付け焼刃のような仮初めの衝動が、村から遠ざかるという目先の目的と合致していたのが、僕が崩れ落ちなかったゆえんだったのかもしれない。
 幼なキトゥンの特徴である、あらゆる鋭敏な感覚器官が退化して久しかった。
〈千年森〉を出奔したときには備わっていた優れた嗅覚も今じゃ見る影もない。嗅覚だけじゃない、聴覚も、触覚も、雌を探すために必要だったそれらの器官はすべからく、ある一定数の雌と接触した時期を境に衰退していった。不必要なものになっていくからだ。
 代わりに視覚は発達し、色の見分けが数段につくようになった。
 けれどそれがなんであるというのだろう。
 目に見えるものの中にどれほどの真実が含まれているのか。
 けれど僕はもう、この一番特化されたこの感覚、「視覚」に頼ってこの嵐を切り抜けていくしかない。
 大人になるにつれて表面的なものしか見えなくなる。
 表層的なことに囚われていってしまう。
 だから、失われていった感覚の中に、欲望の「終着点」に関する何かとても大事なことが含まれていたような気がしてならない。
 そうだとすれば、僕は永遠に失ってしまうのだろうか。
 その、「終着点」を。
 嫌だ……!
〈千年森〉に帰りたいのか帰りたくないのか、そもそもそこは僕が帰るという認識を抱いていい場所なのか、そもそもそれは何処にあるのか、それすらも何も定まっていないというのに、永遠の別離を想像した途端、ぞっとするような恐怖が身の内を浸した。
 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!
 それなら、せめて生きながらえていなくては。
 止まない雨に体温は奪われ空腹も限界に達している。そもそも空腹感すら感じなくなって久しい。
 昔と違って、生食を受け付けない身体になっていた。けれど火を起こす時間も気象条件も揃っていなかった。そもそも危険を犯す気は更々なかった。
 狼煙が上がりでもしたら、いつあの「村」の連中がやってくるか……。
 狭い共同体の中の掟は狭量で偏狭だ。
 それは、チコの暮らしぶりもそれを証明していた。コロンのパパの情や優しさなどで防ぎきれるものでもなかった。
 ああ、チコはどうしているだろうか。僕が起こした惨事とはいえ、彼女の家の庭先で起こったことだ。うまく村のキトゥンたちの追求を逃れ得ているだろうか。
 こんな状態になっても、まだ、未練がましく彼女を想っている自分がいる。
 一方で僕の中心、中央に居座る強い欲望は冷静にチコを不必要と切り落としてすらいる。
 欲望が冷静な判断力を兼ね備えているとは!
 それは矛盾なのではないか。
 それはもはや「意志」といっていいものなのではないのか。
 欲望にしろ意志にしろ、何か極端に極限に行き着いてしまった生物の感情は、最終的には一周して同じ一点に行き着いてしまうのかもしれない。それは欲望であり意志でありそれらを漂白した先にあるものなのではないか。
 ……。
 それは「生」なのではないだろうか。
 何か一つの真理に辿り着きかけたときだった。
 雷雨が森を切り裂き、その光景を最後に僕は意識を失った。


次の更新は9/15(金)を予定しております。
2017-09-01 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 28 :
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「千年相姦」四章前書き

皆さんいつも「千年相姦」にお付き合いくださりありがとうございます。
三章に入って真・クルルーがお目見えしてから、賛否両論いただいており、このことを嬉しく思います。

9月1日から新章「四章 レフィナの感想」が始まりますが、クルルーはますます身勝手に、独りよがりに行動していくことになります。

書き手にはいろいろなタイプがいるかと思いますが、わたしは百発百中、自分を物語に投影させるタイプです。
だから実は、クルルーにいただいたお言葉はそのまま自分自身への言葉として響くこともあります。
でもご心配なく。
その辺は、うまく切り分けられるようになったので、忌憚のないご意見を下さると嬉しいです。

二年ほど前に何かに取り憑かれたように10日で仕上げた作品で、おまけに推敲もろくすっぽしていないのでひどい仕上がりです。
ただ、自分の想いの丈を1200%込めた作品にはなっていると思います。
そうした作者の自慰行為の結晶ともいえるこの作品は、ときに醜く、ときに生々しく響くこともあるかもしれません。

水が合わないな、と思われたら、引き返してくださって構いません。
それでも、なんとなく気になるな、と思っていただけたら、これ以上嬉しいことはありません。
四章は9月から二ヶ月間、六回にわけてお送りいたします。
よろしくお願い申し上げます。
2017-08-28 : ■連絡事項 : コメント : 14 :
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マイナスエネルギー2

前回のマイナスエネルギー1の記事ではたくさんの方にご反響いただいた。
やはり皆さんそれぞれ思うところがあるようで、こういった爆発力や推進力といったものは、ある一定の時期を境に落ち着いてくるものなのだと思った。
で、そんな中にあって、「canariaさんがそんなになって寂しいです、心細いです」といった旨のお便り(?)をいただいて、自分の活動をそうやって見守って下さる方がいらっしゃるのはありがたいことだなぁとしみじみ思う反面、ちょっと言葉足らずな部分がるようだと思ったので、この間の記事に加筆することにする。

まず結論からいうと、創作意欲自体はまったく衰えていない。
あの書き方だと、わたしが現実の生活に満足して身も心も丸くなり、さも創作する必要を感じなくなったかのように見えるのだろうけれど、それはあくまで「動機付けの一つとしてのマイナスエネルギー」が衰退したという意味であって、今はそれに代わる新たな動機を模索中なのである。

マイナスエネルギーという言葉がまた誤解を招く要因なんだと思うんだけれど、わたしがここでいうマイナスエネルギーというのは、ごくごく個人的な体験や経験から派生したものを指す。
わたしでいうと、面倒くさい家庭環境で培われた捻くれた考えや鬱屈だ。
そういったものを、創作を通して表現していた。

で、侵蝕恋愛だったり千年相姦だったりを通してそういったものを発散し尽くしているとさすがにネタ切れになってきて、ネタ切れというのはつまりわたしの心の傷が溶解したというサインでもあるのだと思う。
だけどネタ切れになるほどマイナスエネルギーを垂れ流しまくっているにも関わらず、自分の心の奥底には耐えず満たされない想いがわだかまっていて、わたしが幼少期の頃から感じているこの心の飢えみたいなのは、家庭環境で培われたものでなく、どうやらもっと別のところからくるものであるようだという考えが頭をもたげてきた。
マイナスエネルギーは年々穏やかになるのに、この「飢え」は年々強くなっていく一方なのである。

飢え、と表現したけれど、マイナスエネルギーが海の上に突き出ている氷山なのだとしたら、この「飢え」は、海に埋もれている氷の土台に例えられるような気がする。
マイナスエネルギーという、個人の体験や経験から派生した、ある種「不純物」を切り崩したことで、それを上回るマイナスエネルギーを発見したという気分だ。

突き出ている氷山はあと少しで、だからこそその切り崩し作業は慎重に行わねばならない。

実はここ二ヶ月ほど「侵蝕恋愛」の執筆を(敢えて)ほっぽりだしていた。
「未完成の傑作より完成した駄作」をモットーに、言葉をこねくりまわそうと思えばいくらでもこねくり回せそうなものなんだけれど、敢えて自分に冷却期間を課したのである。
四巻、五巻と続けて出したせいか、エネルギー切れにもなっていたのもあった。

で、パワーが重鎮してきたのか、そろそろ六巻の執筆に戻ろうかという気になってきた。

けれど依然悩みは尽きない。
セイレンたんがダークホースのような気がするのだが、果たして。

そんなこんなで、水面下ではいろいろ足掻いているので、不安に思わないでいただけると嬉しいです、某様(笑)

他にも、水面下でいろいろ準備中なのですが、それはまた別の機会に。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
よければ皆様の心の声もお聞かせくださいね。
2017-08-23 : ■雑記 : コメント : 16 :
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『千年相姦』三章 クルルーの手紙 シロツメクサの花冠(4/4)

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四回に分けてお送りしてきたクルルーの手紙ラストです。
パパをめたくそ言っていたり、これでもかとばかりに自虐と皮肉のオンパレードだったクルルーですが、彼が結局この手紙で伝えたいのはこのことでした。
クルルーがチコへの想いに答えを出しています。
四章『レフィナの感想』に移行するその前に、クルルーの手紙をお納めください。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)


三章 クルルーの手紙 シロツメクサの花冠(4/4)


 ねえ、チコ。
 僕、正直いうと、あのとき、あのとき、っていうのは、君とコロンのパパが抱き合っていたときのことなんだけど、ちょっと、いや、かなり昂揚していた。
 実は……、ってやっぱりいいや。
 こんな尾籠なこと、わざわざ書き残すことないね。君にばれないように物置から出てくるのが大変だった。ま、そういうこと。
 僕の切望していることが再現されている、って思ったんだ。血の繋がった親キトゥンと、仔キトゥンが、抱擁し合っている、それも、危うい形で……。君にしては、おとなしかった、あのときの様子、……。それは、君自身が本当の意味で苛まれていたからなんじゃないかな。パパの物いわぬ「求め」に対して。もっというなら心が犯されてしまいそうな恐怖っていうか。僕は雄だから、雌の気持ちは想像することしかできないけれど、コロンのママがコロンのパパだけにすべてを捧げていたように、実は君にもそうしたいと思う一面があったんじゃないか。
 僕はそんなふうに思ったんだ。
 そうして僕は、あのとき初めて、どんなに君が振り乱れていようと、僕は一度だって君の心に僕の欲望を注ぎ込むことなんてできていなかった、っていうことに気付かされてしまったんだ。
 そう、君は、本当の意味で僕に心を傾けていなかった。
 あれは、身体の快楽に火を注いでいただけの交配に過ぎなかった。だけどいくら昂揚していたとはいっても、僕が君のパパ役を努めていた時点で、僕の直接的な影響力なんて高が知れているよね。君の頭の中ではあの「パパ」が再現されていたんだろうし、僕だって……。
 だけどあのとき、コロンのパパと君が抱擁しているときに初めて気付かされてしまったように、今また初めて気付かされたことがある。
 一度あることは二度ある、って、本当だね。
 チコ、君のことが好きだった。
 君に、恋をしていた。
 いつのころからか、僕は君の喘ぐ姿の中に「君自身」を見いだしていた。君自身に欲情していたんだよ。
 今さらだね、こんなこと。
 だけどこんなこと、らしくないというのもわかっている。
 君だってこんなのは受け入れがたいと思っていることだろう。
 だけど、安心して。
 僕、本当の本当の本当にいいたくないことは、徹底していわない主義なんだ。
 まあ、この手紙に端々にでも、それは感じられたでしょ。
 だから、君に恋してはいたけれど、「文字に残す」程度には、秘めたるべき思いでもなかったってこと。
 けど、直接君にいうのは気が引けたから。
 っていうか、矜持が許さなかったから。
 僕みたいな根性のひねくれた雄が矜持も何もないけどさ、「駆け引き」に負けた気がしたみたいなのが、嫌だったんだ。
 だけど、君の勝ち。
 今までありがとう。
 それからこれ。
 頑張って作ってみたんだよ。
 シロツメクサの花冠。
 君の黒髪に映えると思ってさ。
 で、本当はこれで「ユビワ」を作っていようとしていたことは、ここだけの秘密。失敗したんだ。つまりその程度の思いってこと。
 ユビワって知ってる?
 神様であるニンゲンが創ったものとだけ記しておく。
 今までありがとう。
 じゃあ。

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僕が恋したチコへ クルルーより


次の更新は9/1(金)を予定しております。

2017-08-15 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 20 :
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『千年相姦』三章 クルルーの手紙 シロツメクサの花冠(3/4)

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前回に引き続きチコへ宛てたクルルーの手紙3/4です。
前回パパのことをメタクソに言っていたクルルーですが、なんでパパの内情にここまで詳しいのかその理由が語られています。クルルー、影でこんなことしてたんか……。覚えていらっしゃるかどうかわかりませんが、二章『クルルー様の冒険譚』でママとクルルーが家事を終えた後、二匹で沐浴に行くシーンがあったかと思うんですが、その裏にはこんなカラクリがありました。
それから、クルルーの「初めての相手」ですね。そのことについても触れてます。クルルーの初体験の相手はコロンじゃなくてこの人でした。
この二匹が築いていた、そこはかとない「共依存」の匂いを感じ取っていただければと。
クズ……クルルーの語りを引き続きご覧ください。それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)


三章 クルルーの手紙 シロツメクサの花冠(3/4)


 ああ、なんでこんな詳細を知っているのかっていうと、それはまあ、毎晩折に触れて話をしていたとは思うんだけれど、「月夜の散歩」中に、コロンのママが自分からぺらぺら喋りだすからなんだよ。あの時間帯に一匹で入浴に来るのはわかっていたからさ、興味もあって近づいてみたわけ、まあ、それなりに時間をかけて、ではあったけれど。コロンのママは一見柔和そうだったけど、警戒心が半端なく強かったから。けれど、ああいうところが逆に雄の心を駆り立てるんだ。『背後』からそういったら、コロンのママ、頬を羞恥に染めていたっけ。わかりやすい雌だった。そうして仔キトゥンを産んだ雌の身体って、癖になるんだよね。この感覚を君にも教えてやりたいよ。教えたか。間接的な方法で。君の指を口に含んでやってたあれ、コロンのママを再現していたつもりなんだ。いうのを忘れてた。
 ここの村のキトゥンは、ほんと、よそ者に対して護りが甘いんだよね。ニゲルも、……あいつ、お喋りなんだよ。のべつまくなし、会うたびに聞いてないことまで話してくるからさ、適当に相手してやっていたわけ。「君みたいな美しいキトゥンは見たことがない」っていわれるたびに、苛々させられていたものだ。
 ……誰がなんといおうと、僕は美しくも優れてなんかもいない。
 それは、今回の事態(※管理人注/ニゲル大木壁ドン突き落とし事件)だって、そのことを証明している……。
 僕は、醜い。
 中途半端な被毛の色も、僕のひねくれた根性をそのまま体現しているかのような折れ曲がった鉤尻尾も……、すべて、すべて。
 君のような、完全な黒色をしたキトゥンになりたかった。
 だから、僕の理想を体現したような、黒い髪をした君にこんなにも心惹かれてしまったのかもしれないね。初めて見たときから、初めて会った気がしなかった。まるで何年も前から知り合いだったみたいに、僕たちはすぐに気心が通じ合ったね。
 って、身体のほうが先だったけど。
 あのときは驚いたなあ。
 何せ、伏せっている僕の上にいきなり跨がってきたんだから。おかげで僕の『病気』が治ったわけなんだけれど。けれど、あんな強制的な形で自分の病気の正体を悟らされてしまうなんて、君も相当意地が悪い。
 交配に慣れてきたころに、君を極限まで追い込むような交配をするようになったのは、君に仕返しをする意図もあったんだ。
 だけど、僕の下で喘ぐ君を見ながら、ああ、君もなんだかんだで雌なんだな、って思わされたものだったよ。
 君にあんな一面があったなんて。
 ほどけた包帯から血が滲み出ていた。
 あんなの、僕じゃなきゃ興奮しないと思う。
 それは、多くの「お友達」に「引かれていた」わけだよね。だけど僕には自負があったよ。君のそうした「傷」を受け入れてあげられるのは僕しかいないって。なんでかな、手に取るように、君の求めていること、表面的な事象に隠されて埋もれていることの本質のようなものが、わかってしまうんだ。君が交配中に腕をかきむしるのが好きだったのは、それくらい激しく自分だけを見てほしい、っていう心の声だったんだよね。決して、多くの「お友達」がいっていたように「嫌がらせ」だったわけでも「あてつけ」だったわけでもない。ただ、その表現方法がねじ曲がっていただけで。
 〈千年森〉には年月を重ねすぎてねじれた樹木がいっぱいあったから、そのせいもあったのかな、君のねじれなんてそれに比べたら大したことないよ。上には上がいるものだ、例えば、〈千年森〉を創った人、とかね。
 そうそう、君がいうように、よく聞くお伽噺の一つだよ。『千年森の主』。有名なお伽噺だよね。神様たる「ニンゲン」が一人で住んでいるっていう。そう、僕はその「ニンゲン」に育てられたんだ。
『あんた孤独すぎてとうとうそっちの方向にいったのね』
っていう君の言葉は、あながち外れていないかも。
 そうだよ、チコがそういうならそういうことにしておいていいかなって僕は思ったんだ。あまりむきになって君の機嫌を損ねるのは嫌だったし。交配中は、お互いに余計なことはもち込まない、っていうのが、暗黙のルールだったしね。
 僕たちは互いが互いに、お互いにないものを与え合っていたんだ。生まれてから今まで、長い年数をかけて生成されていった大きな形をした空洞を必死に埋め合っていた。
 もっとも、僕たちの空洞は貪欲で、埋めても埋めても今度は空洞のほうが膨張していく一方だったんだけどね。
 ホント、難儀だよね。カゾクに恵まれていないキトゥンっていうのはさ。


次の更新は8/15(火)を予定しております。

2017-08-01 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 24 :
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メルカリ出品から見えてきたもの

前回のコメ返でも少し触れさせていただいたのですが、最近メルカリを始めました。
メルカリをご存じない方のために少し説明させていただきますと、メルカリっていうのはスマホからお手軽に個人で出品、購入できるっていう今日本で大人気(?)のフリマアプリのことです。
某リサイクルショップの買い取り額があまりに安いので(一円とか)、それよりはましかと思って何気ない気持ちで始めたのですが、登録した直後に商品一点お買い上げ、その後も購入が止まらず、結局一週間で一万二千円程の利益になるという盛況ぶりです。すごくないですか!?
まあ売るブツにもよるのかもしれませんが、しかしわたしが書きたいのはそんなメルカリ体験記などではありません。
メルカリ出品から見えてきたことを書きたいのです。

フリマですから、まあ、自宅にある不要なものを出品する訳です。
で、出てくるわ出てくるわ、捨てるには忍びないんだけれどお値段が付くのであれば手放してもいいかなと思える品の数々。
つけまから始まって衣服や靴など、最初はあまり興味のないジャンルから手放していったんですが、ネタが尽きてCDや本に移行する過程で気付かされたことがありました。

あ、自分、もうこの本手放せるや、と思って驚愕した本。
それは、Coccoが特集された音楽雑誌でした。

これも、若い方はもうご存知ない方のほうが多いと思うのでご説明させていただきますと、Coccoというのはその昔小室サウンド全盛期だったころ(だったかな?)、その裏でひっそりじっとり根強い支持を得ていた女性歌手です。現在も現役で活動していらっしゃいます。

Coccoさんはどういう歌手かというと、一言でいうと日本のすべてのメンヘ◯の心を代弁していた歌手です。
というと、熱狂的なファンの方及びご本人は大激怒すると思いますが、とにかくなんていうか彼女は技術とか音楽性とかいったものを超越したところに立っていた歌手なのです。わたしは彼女を歌手というよりは、「歌」という媒体を使った憑依型の表現者、というふうに見てます。

わたしは彼女の音楽というよりは彼女の生き様に惹かれるものがあって、ずっと彼女の活動を追わせていただいてました。
Cocco特集本なんかもその過程で手にしたものです。
で、引越のたんびに「手放せないものリスト」の上位にかちこんできた十年来のバイブルを今回あっさり手放してしまったのです。

念のため出品する前に読み返してみたりもしたのですが、なんていうか内容が頭に入ってこないんですよ。
当時自分が感じていた感情とかも甦るんですけれど、それも込み込みでもう受け入れられない自分がいたというか。
昔はCoccoさんがいうことすべて手放しで賛同していたのに、今はそうじゃない自分がいることに気付かされたのです。
これは、自分でも本当に驚きの事実でした。

もう何名かの方はお気づきかもしれませんが、わたしがこのブログとは別のpixivBOOTHというところで発表している「侵蝕恋愛」という物語は、ごくごく若い頃の自分の実体験を物語に落とし込んだものです。
といってももちろんそのままの形じゃないですよ。

わたしは当時、今でいうメンヘラでした。
で、そのことが消化不良のまんま何となく大人になってしまったことがずっと納得いかなくて、そういった自分の中の吹きだまりを編集、構成しなおしたのが「侵蝕恋愛」という物語でした。
ケイは「あのときこういう人が側にいたら心強かっただろうな」という動機で生まれたキャラですし、セイレンたんは自分の中のある面の象徴付けとして生まれたキャラでした。

最初は。

でも、自分の意志とは無関係に彼らがどんどん物語の一キャラクターとして一人歩きを始めるようになって、その頃からケイは理想の男性じゃなくなりだんだん嫌いになってきましたし、セイレンたんもどんどんつかみ所のない得体の知れないキャラクーになってきました。

で、そのことと今回Coccoの本を手放してしまえたことが無関係とは思えないのです。

「侵蝕恋愛」の出発点は、自分のなかにある「マイナスエネルギー」です。
それが、年々薄くなってきている感触があるのです。
だから、今、わたしは「侵蝕恋愛」が終るのが先かマイナスエネルギーが尽きるのが先か、という瀬戸際にいて、おそらくあと一〜二年で決着を付けないと「侵蝕恋愛」は完結させることができないんじゃないかと思ってます。

わたしはこれまで、自分の中のマイナスエネルギーが尽きれば、きっと何も表現できなくなるんじゃないかと思ってました。
前の「音速形而上少年」というブログを閉鎖したのも、皆に優しくされすぎてあったかい気持ちになるのが怖かったというのが本当の原因です。
あったかい気持ちになると自分は満たされるけど、その分「侵蝕恋愛」という世界観の精度が落ちてしまうんじゃないかというジレンマに襲われてました。

でも、マイナスエネルギーが尽きつつある今、表現したいことがないかというとそんなことはまったくなくて、逆に表現したいことがいっぱいあって、それは「侵蝕恋愛」を出し切るまでは皆さんに発表することはないだろうけれど、構想はたくさんあるのです。

で、結論として何がいいたいかというと、自分は死や自傷や憎しみ恨み、ちょっと特殊だった家庭環境で溜まっていた鬱屈、そういったことだけを表現するために創作活動をしていた訳ではないということ。
それらはトリガーにしか過ぎなくて、自分が表現したいものはもっとこう……違うものなのです。
そのことに気付いて、で、それを模索するのが今とても楽しいのです。

このブログのタイトルでもある「Fleurage(フルラージュ)」は、フランス語の古語で「花」という意味です。
これといってはっきりとした意図があって「花」というブログタイトルにしたわけではないんですけれど、自分の子どもの頃の夢は「花屋さん」になることでした。なんでかというと、花はそれぞれ自己主張がものすごいのに総体として見たときに全然喧嘩をしていないからです。
なんかそういうのが子ども心にすごいあって。それで花屋さんていいなあ、と。

花には色があって形があって匂いがあって、その中には憎しみや悲しみといった負の感情も含まれているんだと思います。
ただ手放しに「世界は美しい!」「ポジティブシンキング最高!」っていうんでもなくて、かといって「憎い、この世の中がとっても憎い、せや腹いせに手首切ったろ!」っていうんでもなくて、なんていうんですかね、そういう……
自分がマイナスエネルギーとは違う、別の動機付けの段階に差し掛かっているのは確かなんです。

そんなわけで、メルカリを通して一種の断捨離をしているわたしだけれど、断捨離にはそういった心を可視化する面もあるんじゃないかと思うというお話でした。
よければ皆さんの中二病的な面とか、どうしようもない心の声とかもお聞かせ願えると嬉しいです。なんで創作をするのかということも含めて。

ここまでおつきあいくださりありがとうございました。
2017-07-28 : ■雑記 : コメント : 14 :
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『千年相姦』三章 クルルーの手紙 シロツメクサの花冠(2/4)

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前回に引き続きチコに宛てたクルルーの手紙です。
二章『クルルー様の冒険譚』で何名かの方がご指摘くださいましたが、パパの「一年に数度の商談の日」の裏にはこういうカラクリがありました。パパの名誉のためにいっときますが、パパが特別クズなんじゃなくてチコが特別美しい魔性の雌ってことなんですよ(笑)クルルーはそれを「悪魔の雌」と表現しています。それは行方不明の彼女のお母さんもまたそうであったということの伏線です。
それでは、どうぞ。


【今回登場する登場人物】
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クルルー(17歳)


三章 クルルーの手紙 シロツメクサの花冠(2/4)


 僕と出会ったころからそうであったように、多くの雄を虜にしてきた、その希有な美貌。小さな顔を縁取る短く切り揃えられた黒髪。君は「雌である幸せ」を否定するがために髪を短くしていたふしがあるみたいだったけれど、逆効果だったみたいだね。残念、僕は君のその、一見雄みたいにも見えるさっぱりした髪型が好きだったんだ。身なりに構っていないふうが、逆に君の美しさを強調していたんだよ。それって、本当に美しいってことだから。コロンのママを見てみなよ、ああいうのを「雰囲気美キトゥン」っていうんだよ。(※管理人注/雰囲気美人といいたかったらしい)素材自体はまあ、……悪い、ってわけじゃないんだけれど、まあ、凡庸な部類に入るよね。って、比較対照が悪いか。コロンのママもコロン姉妹も村では垂涎の的だったし。どうも君という存在は、すべての基準を根底から覆してしまう危うさがある。そこが、僕含め、君の「お友達」が君の家に通っていたゆえんでもあったのだろうけれどね。(※管理人注/チコは村で「無銭の娼婦」みたいな位置づけにあった雌です。生活費なんかはパパにもらっていたはずなので、生活費を稼ぐ必要はなかったはずなのですが、パパを独占できない寂しさを交配でまぎらわせていました。セックス依存症みたいな感じですね)
 通うといえば、コロンのパパが「お野菜」を持って突然訪れてきた日は驚いた。君にとっては突然でもなんでもない、申し訳程度に設けられた親仔の交流日に過ぎなかったのだろうけれど、僕がいつも村や村の周りの森をフラフラしていたせいかな、君の家に世話になっておりながら、君の事情をまったく把握していなかった。食事のときすらいるかいないかといった具合だったし。交配をするためだけに君の家に寝泊まりしていたようなものだ。
 だから、君とコロンのパパに、いまだそんな形の「絆」が存在していたことに驚かされたんだよ。交配のときに僕に「パパ役」をせがんでいたのはそのせいだったんだね。あれはちょっと倒錯していた。……まあ、それをいうなら僕のほうも相当どうかしていたけれど。はっきりいって、「あれ」をお願いできたのは君相手だったから。お互い様っていうのかな、こういうの。
 君がコロンのパパと抱擁している姿を見たときは、正直ひやひやした。物陰からそっと見ていたわけなんだけれど、固唾を呑んで見守る、っていうのは、まさにああいうのをいうんだと思った。
 コロンのパパ、あれ、相当やばいよ。「君はどんどん君のママに似てくるね」なんていってさ、君の腰に手を回して……、畑仕事で鍛えた、土だらけの腕が、なんかやけに卑猥に見えたな。ほら、あのパパってさ、すごい若いじゃないか、僕たちの兄弟、っていっても通じるような容貌をしている。実際、若いんじゃないかな。だからこそ、『過ち』を犯しもしたんだろう。そりゃ、ね、あれだけきれいな顔してたら、雌たちも放っておかないだろうけれど、相手が悪かった。何せ「悪魔の雌」によりによって出会ってしまったんだから。それもあんな微妙な時期に。コロンのママが身ごもっていたっていうのも悪かったのかもね。ニゲルは何を勘違いしたのか「お姉さん」って思っていたみたいだったけれど、違う、君のほうが妹なんだ。もっとも、コロンと数ヶ月も離れていないけれど。あのとき、ママは、自慢の料理も作ってあげられなくて、あのパパを構ってやることができなかった。ほんと、つくづく幼児性のあるキトゥンなんだよな。そしてそれがあの若く華やいだ雰囲気に繋がっているのだから、世の中良くできている。だけどそう思うと、ある意味コロンのママは本当にコロンのパパに愛されていた、ってことになるよね。構ってやりさえすれば、コロンのパパは決して『過ち』を犯さなかったのだろうから。現に今だって、ニゲルと畑仕事に励んでいる。それはもう毎日毎秒規則正しく。


次の更新は8/1(火)を予定しております。

2017-07-15 : 小説・「千年相姦」 : コメント : 26 :
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プロフィール

canaria

Author:canaria

イラストと小説でオリジナルの世界観を表現しています。上の画像はたらこさんがまたまた描いて下さったものです。今回はこちら方面から攻めてこられました。夢のコラボですね。ケイがとっても耽美で素敵です。瞳の色も設定の琥珀色を踏襲されてて感激しました。たらこさんいつもありがとうございます。初めましての方はこちらをどうぞ。

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Nymphe(ニンフェ)名義の本家HPです。ここを見て興味を持って頂けたらこちらも覗いて頂けると嬉しいです。

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『侵蝕恋愛Ⅰ紅き瞳の双花』
この世に居場所のない二人は、互いに何を求め、何を互いに見出したのか。
160704_1.jpg
『侵蝕恋愛Ⅱ蜜月』
ケイは路地裏で出逢った両性具有の少女の「片割れの性」に溺れ込むーー。
『侵蝕恋愛Ⅲ孤児院日誌』
ファーンは明け方の海で亡き母に瓜二つの少女セイレンに出会うーー。
『侵蝕恋愛Ⅳ恋人たちの契約』
一冊の手記がケイを過去へとからめ取るーー。
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